原始的な炎から生み出す
味わい深い燻製を届ける
青木 章
(スモークハウス白南風)
出雲市出身。子どもの頃から雲や海など自然の生きた動きに興味をもち、「火山屋」となる。鹿児島の離島や雲仙普賢岳、三原山など、火山の観察を行う。33年前から「スモークハウス白南風(しらはえ)」として、発色剤や添加物を使わない燻製づくりを行っている。
鹿児島の離島で味わった
燻製の味に魅せられる
私と燻製との出会いは「火山写真家」として活動していた鹿児島の離島でした。山陰で食べる魚とは違い、鹿児島で食べる魚はカラフルな色をしていて磯の匂いが強く、癖があるものが多いです。ところが、その身を囲炉裏でスモークすると、今まで経験したことのない味、それでいてどこか〝懐かしい味〟がしたのでした。そう、本能的なものをくすぐる風味でした。
昔むかし、人が狩りをして肉や魚を生で食べていた頃、火を使いはじめるようになると食材を火で炙り、それから乾燥させる技術を持ち、そして煙でスモークして保存食を作ったと考えられます。その自然の流れの中で、生活の知恵によって根付いたものが「燻製」だと思うのです。離島のスモークの旨味は人間が〝火〟を使いはじめたころから遺伝子に組み込まれているような感覚でした。
それから燻製のとりことなり、独学で燻製をはじめました。
最近はアウトドア料理で「燻製」が流行り、食材に香りをつけて楽しむ人が増えてきました。しかし…「ちょっと待って!燻製は香りだけじゃないよ。じゃ、鰹節はどうなんだ?」と思ってしまいます。鰹節が燻製の一つであると知らない人が多いですね。鰹節は原材料となるカツオをはじめにボイルして骨を外し80度の高い温度で繰り返し燻し、最後にカビ付けと乾燥を行います。これは正しくは「焙乾」という方法で、2カ月ほどかけて作り上げます。時間をかけて燻すことであの凝縮された独特な風味と旨味が出てくるのです。
発色剤や化学調味料も不使用
素材の旨味を引き出す
後年、地元出雲に戻り、掘っ建て小屋で燻製づくりをはじめたのは34年前。初夏に水揚げされるトビウオを手はじめに、旬のカマス、イワシ、アナゴ他、また淡水系の魚も手掛けました。なかでもアイゴは毒針と磯の匂いがして、出雲では敬遠される雑魚扱いですが、スモークすると離島で食べたのと遜色のない「懐かしい味」が再現できました。
しかし、冬場の時化による休漁もあり、魚の燻製だけではやっていけず、途中から肉の燻製もはじめました。魚と違い肉は自然に赤く発色します。それは子供たちにも分かるくらい、本当においしい味になるのです。燻製は他の調理法では出し得ない、一番正直に案材の本質を出してくれる調理法だと思います。
窯で焚く木はコナラ(肉は桜もブレンド)を使っています。コナラは炭焼きやシイタケの原木に、昔の里山では薪の燃料としても使われていました。他の雑木に比べて火持ちが良く香りがいい!肉でも魚でも使える万能の木です。よく、家庭でスモークすると「香りはいいけど、中は生だった…」ということがありますから、気を付けてください。燻製づくりで一番肝心なことは中まで熱が通ることです。
そのコナラの木を使い、魚によって異なりますが、30度~60度の窯の中で7~8時間ほど温燻する方法が多いです。ソーセージの場合は、75度くらいまで温度を上げます。つまり、燻製は煙からのものと、加熱により原料そのものから生まれる成分の和ということになります。要は、煙の化学物質と加熱によって原料から生じる化学物質の成分が融合したものが燻製なのです。
今つくっている燻製の種類は肉が中心でベーコン、ソーセージ、平地飼いの鶏もも肉などを。魚はトビウオ、アナゴなども手がけています。最近はジビエのイノシシやシカも燻製しています。
空、海、山…壮大な自然の姿を
自分の眼で見続けたい
休日という休日はないのですが、よく近くの海岸に行きます。特に、台風が通るときや冬場の時化は興味津々。実は、不思議な波の動きや雲の流れを見ることが大好きなのです。子どものころになりたかった職業は「気象予報士」でした。
例えば、弥山の山に霧がかかると湿度が高いので前線が日本海にあるんだ!と、夏にはよく家の大屋根に登り、ただただ入道雲のドラマを見てボーッとするのが好きでした。学校でも教室の窓際に座り、雲を眺める少年でした(笑)。うちはブドウ農家だったので、台風がくると大変でしたが、台風の姿が間近で見られると思うと逆にワクワクしていましたね。
そんな自然を眺めることが好きな子どもだったので、大人になり「火山屋」になったのは自然の流れだったのかもしれません。火山へ登っては火口で起こる一連の火山活動を観察していました。
昔も今も…これからも
火の魔力にとりつかれ
「火山屋」とは聞き慣れない言葉かと思います。火山研究に携わる人たちは、専門的な化学知識で診断にあたるのに対し、火山屋は火山をひとつの生命体として、その素顔に交わる、言わば問診のようなものです。火山が噴火するときも、しないときにも山に登り、五感で変化を観察するのです。結果として噴火の予知にもつながります。火山に上がると、そこにどんな現象が起きているのか?真実を知りたい、好奇心のおもむくままに火口を目指すのです。
しかし、周りから見ると火山噴火のときに山へ登るのは危険すぎると非難されます。少しでも安全な観察のためには、噴火の現場での経験を重ねるしか対処方法はありません。ただし運も味方にします。火山は何十万年もの時を生き続けている。そんな火山も通い続けるうちに、火山の素顔に個性をみいだし、自分なりの親近感が生まれて来るのです。
そんな経験を積んできたからか、燻製作りの「火」に共通点がある「燻製」を生業にしています。今日も窯の前に座りながら、燃える薪の火に、火山と同じ「原初」を見つめています。
出雲人が薦める出雲
- 古島商店のイカの麹漬け
日御碕の古島商店で売られているイカの麹漬けがおいしいです!大社沖で捕れたイカと糀酒でつくった無添加食品。
- 薗の長浜
子どもの頃から海へ行っては、波や雲の動きを眺めていた海岸です。今も、台風が来るたびに海へ行き、安全に気をつけながら雲の様子を見ています。