陶器や塗り物など、身近な生活用品を用いて飾りを作り、神社へと奉納する平田一式飾り。平田では毎年競技大会が開催されるほど盛んです。そんな平田一式飾りの成り立ちや魅力を平田一式飾り保存会の方々にお聞きしました!
左から
《参加者》
- 大島 治さん/平田一式飾り保存会会長
- 加田 幹男さん/平田一式飾り保存会副会長兼技術部長
- 板垣 陽吉さん/平田一式飾り保存会
- 尾添 重夫さん/平田一式飾り保存会
- 高橋 健司さん/鳥取大学地域学部教授
司会者平田一式飾りとはどのようなものですか?
大島さん平田一式飾りとは陶器や塗り物など、身近な生活道具を用いて別のものを表現する民俗芸能です。使う材料は1種類のもので飾ることと限られています。
毎年7月に平田天満宮でのお祭りに奉納し、無病息災を祈ります。
尾添さん私が小さいときなんかはイカの骨で白鳥なんかも作とったよ。今では文具一式とかガラス一式とかいろんなもんでやっとるね。陶器でやるのが一番多いけど。
司会者保存会の活動はどのようなことをしていますか?
大島さん年間を通して様々な活動をしていますが、一番のメインは平田天満宮祭に町内や団体が奉納する作品制作のアドバイスなどですね。毎年、約10団体が奉納します。同時に作品の競技大会も行っており、その運営もしております。
また、後継者育成として毎年平田高校や平田小学校の授業で生徒と一緒に制作もしています。 あとは出雲のイオンモール出雲などで展示する作品を制作しています。
加田さん一般の方でも予約をすれば、木綿街道の交流館でワークショップや体験講座で指導しとりますよ。
司会者どのようにして制作するのですか?
加田さん芯となる鉄筋などで作品の形を作り、台座に取り付けます(土台を作る)。選んだ材料に針金を結んで、形を整えながら芯に取り付けていきます。紐ではダメだよ。針金だからうまいことできるけんね。
陶器なら1作品に2〜300個は使うね。
尾添さん今は有志で集まって作りますが、昔は各家で持ち回りでやっとったもんです。
私が小さい頃はそれを見て育ったもんだ。
材料は各家や料亭なんかから借りとったけんね。終われば解体して返さんといけんもんだけん。平田一式飾りのルールとして、穴をあけたり、色を塗ったり、現物に手を加えることはしてはいけんのです。ですから、「見立て」という想像したり、考えたりする遊びが、今でも続いているのかもしれませんね。
大島さん現在は、この保存会でたくさんの材料を集めています。基本的にその中から使っているね。 皆さんの寄付のおかげで数え切れないくらいありますよ。
司会者作品のテーマはどうやって決めているのですか?
加田さん各団体で自由に決めていいので、どんなテーマでも大丈夫です。最近の流行も取り入れていますよ。見て楽しいものがいいからね。
昔はそれこそ祭りの翌日には解体していたけど、今は、商店街や施設などいろいろなところで展示も行っています。
司会者後継者は育っていますか?
大島さん大変厳しいですね。若い人がおらんもの。
板垣さん技術部のメンバーは8人だけども、平均年齢が74歳だったかいな?
多少入れ替わりはあるけど、若くならんね。
司会者1作品あたりの制作期間を教えてください。
加田さん大体10日〜1ヶ月くらいですかね。
今までで一番大きかったのは平田本陣記念館の4mくらいかな。玉造(松江市)のホテル玉泉にもあるね。
他にも平田の街中に展示してあるし、平田駅、平田のショッピングセンターVIVAにも飾ってあります。
司会者一番大変な作業はなんですか?
尾添さん「見立て」と言って、現物とは全く違う別のものを表現したり、作りたいものに見える格好に整えるんだけど、どういう風な格好で何を使うか考えて・・・
いろんなもんを組み合わせたり、色(柄)を選んだりして、それらしい格好にするのは大変だね。
司会者今まで作った作品で一番思い入れのあるものはなんですか?
尾添さん「やまたのおろち退治」と「えび」。東京のサントリー美術館に展示されたことがあるんですよ。「えび」は自転車部品だけで作ったものだから面白いよ。
その後、京都の美術館、広島の美術館でも展示されたね。これは嬉しかった。
司会者さて、鳥取大学地域学部教授の高橋健司先生に一式飾りの歴史についてお聞きしたいと思います。
平田の一式飾りはいつ頃からこの地域で始まったとされているのでしょうか?
高橋先生一式飾りのルーツは江戸時代の「つくりもの」とされ、それは18世紀の後半、江戸や上方で人気があったと言われています。平田では大阪と商取引が盛んに行われていたので、そこから一式飾りも伝わったんじゃないかと思います。
その頃、平田地域では疫病が流行っていました。それを鎮めるために桔梗屋十兵衛が大黒天を茶道具一式で作り、飾ったことから始まったと伝わっています。
以後、かかさず平田天満宮祭で奉納されているのです。
司会者日本ではどこの地域で盛んなのでしょうか?
高橋先生
今も続けているのは西日本と北陸の方だけです。他の地域では基本的に「つくりもの」と呼ばれています。
「一式飾り」と言われているのは鳥取島根だけなんですよ。
でもルーツは同じなんです。江戸時代に大阪で出版された「造物趣向種 (つくりものしゅこうのたね)」の復刻版を手に入れたんですが、 作品の絵がたくさん載っていて、どうやら全国各地これをお手本にしていたようです。
街道沿いに商品や人が移動する中でこの絵本も広まっていったのでしょう。 ある意味、ブームがやってきたんですね。
この絵本を見てみると、仏具一式や嫁入道具一式というような様々な一式があったようです。 仏具はシンプルなんだけど、面白い材料ですよ。
今では滋賀県だけかな。そこは町内にお寺があって材料を用意してくれるからできるんですね。
尾添さん仏具は平田でもよく使っとったけどね。 ただ傷がつくので嫌がられてね。 だんだんお寺から借りれなくなってきたねぇ。
高橋先生平田は焼き物に特化した地域ですから、陶器一式がメジャーになってきたのかもしれませんね。 あと、平田には商店がたくさんありますから、お店で扱っている道具もよく使われていました。
司会者山陰は全国の中でも多く残っているのですね。
高橋先生そうなんですよ!
北陸、九州・四国の一部で今も残っていますが山陰では現在6カ所もあるので、本当によく残っていると言えます。
島根県内ではここ平田町と、斐川町直江、雲南市掛合町、奥出雲町の横田と下横田で残っています。 掛合の一式飾りは実は平田と繋がりがあるんです。平田から指導に行っているようですし。
司会者近くで言えば直江でも盛んですが、繋がりはあるのでしょうか?
高橋先生直江との関係は、ある意味ライバル的な(笑)
尾添さんどっちも自分のところが古いって思っとりますわ(笑)
今は作り方が真逆になっとってね。同じ一式飾りでも違って面白い。違ったものを作ろうという対抗心からそうなってきたのかもしれないね。
昔の人はそのくらい競争に熱心だったんでしょう。
加田さん平田は木綿で栄えたんですね。木綿が、色んな所に流通して、その結果 平田町に一式飾りも入ってきたんです。
直江も木綿で栄とったから木綿繋がりじゃないかなと思うけどね。
尾添さんそれぞれで競技大会やっているけど、お互いにはやってないですもんね。
もっと交流して一式飾りを盛り上げていければいいですよね。
司会者なぜ平田一式飾りは平田の町に根付いているのでしょうか?
高橋先生世界でも「つくりもの」の風習はありますが、日本では祭りの造形として長く愛されてきました。平田では神様に奉納をするということで、信仰の力が大きいですよね。
「神遊び」という言葉があるんです。人が楽しむのと同じように神様が喜んでくれると。日本の神様って人間臭いというか神様も同じように楽しむんですね。神様も祭りでは神輿に乗って作品を見に来てくれるんですよ。
江戸時代に疫病が流行り、人々は神に祈った。今のコロナとある意味通じるものがありますね。
そして神に祈るだけではなく、おもてなしをして、どうぞ叶えてくださいと。
神様に奉納するけれど、人々も楽しむ、そういう文化が娯楽として地域に深く根付いたのではないでしょうか。
人が祈る気持ちと一式飾りは深く結びついているなあと、その気持ちがある限りは続くと思いますよ。
司会者高橋先生と一式飾りの出会いは?
高橋先生20年以上前に富山の祭りで「つくりもの」を見たことがあったんです。興味を持って調べていったら山陰にもあると知って、ずっと平田に行ってみたいと思っていました。
2011年に平田に来たのが最初ですね。
毎年作品が変わるし、知れば知るほど面白い。でも、最初はそんなのが研究になるのかと大学で思われていたんですけど、やっと最近ですよね、この研究が認められてきたのは(笑)
平田に学生を連れてきて一式飾りを作らせてもらって、みんなのめり込んでいきましたよ。卒業生も、時々遊びに来ては一式飾りの思い出話をしてくれます。
大学の研究室には平田で作った作品を全部取ってあります。作品で溢れて人が入れないくらい(笑)
司会者研究室から後継者が出てくれたらいいですね。
高橋先生そうですね。卒業後に教師になった学生も少なくないので、子どもたちに一式飾りの面白さを伝えてくれると期待しています。
そして子どもが大人になって一式飾りと関わってくれれば、伝統が繋がるんじゃないかと思います。 10 年、 20 年もっと先かもしれないけれど。
司会者ずばり一式飾りの魅力とは?
高橋先生一式飾りの魅力は何より見ていると和むことですね。
2019年に鳥取大学のマスコットキャラクター「とりりん」を保存会の皆さんと学生たちで作らせていただいたんですが、大学の正門入ってすぐのところに今も飾っていますよ。
すぐに撤去されるかなと思いきやしっかりと定着してくれました。
卒業式の時はみんなここで写真撮影をするなど、今や大学の「顔」となったような(笑)
加田さん一式飾りの「見立て」というのは面白いわね。例えばこのカエルの置き物をひっくり返すと猿に見える。物の見方を変えるだけで違うものに見えるんですわ。それを一式飾りの中でどう表現するか。それだけのことだけど面白いですよね。まさにそれが魅力かな。
尾添さんカエルはびっくりしたね〜。あれがあったから桃太郎や猿にもなったしね。
それまでもカエルは使っとったんだけど、あるとき誰かが「あ!猿だ」って言って閃いたわねぇ。
高橋先生あれはあっという間に出雲一帯に広まりましたよね!
大島さん魅力を知るのは見てもらうのが一番。平田の町にはいろいろなところに飾ってありますので、作品全体だけでなく、足や手など作品の近くに寄って細かい部分までぜひ見てもらいたいですね。
毎年、平田高校の生徒と一緒に作品作りをしています。
針金をたくみに組み合わせて陶器の皿を組み上げていきます。
保存会の方の指導のもと、高校生が一生懸命に組み上げていきます。