出雲大社の門前町・大社町では、約300年続く伝統神事「大社吉兆」が今も大切に受け継がれています。吉兆を出雲大社に奉納し、町内を巡りながら福を分けて歩くこの神事は、「吉兆を行うことで1年が始まる」と言われるほど地域に根付いた行事です。近年は担い手不足が課題となる中、大社中学校の生徒たちが参加する「中学生吉兆」が始まりました。地域の人たちと中学生が力を合わせ、伝統のバトンを次の世代へつないでいます。

《参加者》

「大社中学校生徒 吉兆」支援保存会


  • 岩井 元康(会長)
  • 松井 和生(事務局長)
  • 三浦 伸晴(事務局)
  • 中尾 克行(保存会OB/初代事務局長)

司会者まずはじめに、「大社吉兆」とはどのような神事なのか教えてください。

中尾さん私たちは親しみを込めて「吉兆さん」と呼んでいますが、正式には神事として行われる行事です。およそ300年前から続く神事で、各地域で準備を行い、吉兆を出雲大社に奉納します。その後、吉兆を立てて町内を回り、家々を訪ねながら福を分けていきます。各地区の皆さんの1年間の幸せを祈願する行事です。「吉兆」という言葉には「よいことがおこるしるし」という意味があり、地域の徳、人の徳を象徴する存在でもあります。

司会者大社町の皆さんにとって、とても大切な神事なのですね。

中尾さんそうですね。大社町民にとっては、非常に大切な神事です。独特の吉兆囃子とともに奉納するのが特徴で、「吉兆を行うことで1年が始まる」そう感じている人も多いと思います。

司会者現在、どのくらいの地区が参加されているのですか。

岩井さん現在、大社町には14団体の吉兆保存会があります。ただ、近年は若い人たちが少なくなってきていて、これまで通り吉兆を続けていくことが難しくなってきているのが実情です。後継者を育てるために、どうすればよいかが課題でした。

司会者そうした背景の中で、「中学生吉兆」が始まったのですね。

岩井さんはい。大社吉兆を町内の人たちだけで続けていくのが難しくなってきました。「今のうちから後継者を育てないといけない」という危機感が、中学生吉兆を始める一番の理由です。

司会者具体的には、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

岩井さん平成25年の出雲大社遷宮で北九州の戸畑祇園大山笠が奉納されたことを契機に、平成29年には大社町の「吉兆さん」が北九州の奉祝行事へ招待されました。その際、地元中学生が主役として参加している仕組みに触れ、大社町でも同様の取り組みを導入しようという機運が高まりました。

司会者そこからすぐに始まったのですか。

岩井さんはい、平成29年9月に準備委員会が設けられ、平成30年4月に「大社中学校生徒吉兆」支援保存会が立ち上げられました。 どのような教育団体として運営するのか、その仕組み作りが一番大変でした。このようにきっかけから立ち上げまで急ピッチに準備が進められました。

司会者どのくらいの生徒が参加されていますか。

岩井さん一番最初は囃子の生徒が16人でしたが、7年目の今年は囃子だけでも70人、全体では120人もの生徒が参加してくれました。

司会者中学生吉兆の取り組みについて教えて下さい。

三浦さん毎年4月に、新入生を対象にオリエンテーションを行います。そこで、「中学生吉兆に参加してみませんか」と呼びかけをします。

司会者参加は新入生だけですか。

三浦さんその後、全校生徒を対象に募集をかけます。参加は強制ではなく、自分の意思で参加してもらう形です。

司会者実際の練習は、いつ頃から始まるのですか。

三浦さん6月ごろから12月にかけて、地域のボランティアの方が講師となって指導します。内容は、吉兆囃子と大社神謡です。大社吉兆は、地域ごとに言い回しや節回しが違います。すべてを教えるのは難しいため、中学生の段階では、まず1つの形をしっかり身につけてもらうことを大切にしています。

司会者かなり本格的ですね。

三浦さんはい。練習はだいたい月に2回くらいのペースで半年ほどです。講師は、「大社町吉兆神事保存会連絡協議会」と「大社神謡保存会」が中心となって選び、常時7〜8人の方に教えていただいています。

司会者中学生同士の関わりもあるのでしょうか。

三浦さんあります。先輩が下級生に教える、そうした場面も自然に生まれてきました。これは、中学生吉兆を続けてきた中で大きな成果だと感じています。

司会者中学生吉兆の特徴は、どんなところにあると思われますか。

松井さん一番の肝は、地域と一緒になって作っているというところだと思います。大社中学校に入るまで吉兆に触れたことがなかった子でも、3年間続けることで驚くほど上達することがあります。中には神楽にも関わっている生徒がいて、自分の笛を持ち、練習の合間に神楽の笛を吹く子もいます。大人でも難しい節を、自然に歌えるようになる姿を見ると、本当に頼もしく感じます。

司会者当日はどんな感じで行われるのですか。

松井さん当日は、保護者の方や地域の方にお手伝いをお願いしています。多くの協力者に支えられて、中学生吉兆は成り立っています。保存会同士の連絡交換会でも、「中学生は本当にうまい」という声が上がっています。

司会者観光や交流の面での広がりも感じられますね。

松井さんそうですね。本殿前で多くの人に見られ、写真を撮られることで、中学生たちも「自分たちはすごい行事に関わっているんだ」と実感していると思います。外国の方が参加してくれた年もあり、吉兆は国際交流の場にもなっています。

司会者中学生の感想には、どのような声がありますか。

岩井さん3年間を終えた生徒の感想文には、「これからも何かの形で関わりたい」と書いてくれた子もいて、それを読んだときは本当に嬉しかったですね。中学生自身が、吉兆を通して地域とのつながりを実感してくれているのは、とても嬉しいことです。

ある生徒が詠んだ短歌が、今でも心に残っています。

人々の熱い思いに見守られ
今なお続く吉兆さん
歴史を受け継ぐ
一人になりたい

この一首に、中学生吉兆の意味がすべて詰まっていると感じました。

中尾さんこの取り組みが、卒業後も若い世代に繋がって、自分たちが経験した事を活かして、吉兆さんが続いてくれれば嬉しいですね。

大社町に300年近く続く吉兆神事。その伝統を未来へつなぐために生まれた中学生吉兆は、地域・保存会・中学生が一体となって育まれている取り組みでした。

「地域と一緒になって作る中学生吉兆」。その言葉どおり、大社町の祈りは、次の世代へと確かに受け継がれていると感じました。

「大社中学校生徒 吉兆」支援保存会の皆さま、貴重なお話をありがとうございました。