江戸時代から続く大社ゆかりの工芸を
次世代へとつなぐ
ふじもと たけし
藤本 剛
(藤本木工芸)
大社町出身。江戸時代から出雲大社専属の桧物職を営む藤本木工芸の12代目当主。先代の跡を引き継ぐため、高校卒業後、桧物職人の世界へ。以来60年近く、大社造りの神棚や、神具に関する木工調度品を制作している。また剛さんの長男祥さんは埼玉県を拠点に建築会社を経営しており、出雲と関東を行き来しながら広報を中心に藤本木工芸を支えている。
創業は江戸時代。
出雲大社のお膝元で作り出す大社造りのお宮
元禄元年の創業ですから、かれこれ330年以上になりますね。うちは創業当時から出雲大社専属の桧物(ひもの)職をやっていました。桧物職というのはヒノキやスギを材料にした木具などを作る仕事です。うちでは神饌(しんせん)などを乗せる八足台ですとか、御札を入れる木箱といった木工の神具関係全般、それから家庭用のお宮(神棚)ですね、そういったものを出雲産の木材を使用して制作しています。
うちで制作させてもらう神棚は、いわゆる「大社造り」です。神社の本殿形式では最も古いと言われる形式ですが、社殿の構造や屋根の勾配、屋根の上の千木(ちぎ)や鰹木(かつおぎ)など、出雲大社の本殿に近い形で作っているのが特徴で、創業当時から代々大社造りです。一般的な神棚は伊勢神宮に代表される「神明造り」がほとんどだと思いますので、大社造りの神棚は全国的にも珍しいかと思います。
家を継ぐため高校卒業後は職業訓練校へ
見て学んだ修行時代
私は11人兄弟の末っ子として育ちました。先代である父は少し病気がちだったこともあり、高校2年生くらいの頃から何となく自分が跡を継ごうと思うようになりました。桧物職を継ぐ、というよりは、藤本家を継がなければという思いでしたね。
とはいえ、小さい頃からいつも父の仕事ぶりを見ていた、というわけではなかったので、仕事については知識も経験もない全くの素人でした。高校を卒業するとまずは職業訓練校に2年ほど通って、基礎を学んでから作業場に入りました。職人は当時父を合わせて3〜4人いましたが、誰かに一から丁寧に教えてもらえるわけじゃないですよ。とにかく技術を見て盗んで、学んでいったという感じです。私はもともと多少の信仰心を持っていましたので、こういったものを作らせていただくというのは有り難いことだなと思いながら一生懸命に覚えました。自分の思うようなものが作れるようになったのは10年目ぐらいからでしょうか。作っている時はできるだけ穏やかな心持ちで作るようにしています。神様に関わるものですから。
目標100歳!生涯現役で作り続けたい
有り難いことに、神棚は全国から注文を頂いています。お宮の大きさや中に納める御札のサイズなど、お客様のご希望に合わせて作らせてもらいます。設計図は全て頭の中に入っているので、木を切り出しながら手作業で完成させていきます。大きさやタイプにもよりますが、平均的なもので完成までだいたい7日程度でしょうか。心を込めて作らせてもらっています。
日曜日はできるだけ休みを取るようにしていますが、それ以外はだいたい朝からこの作業場にいますね。ここが一番落ち着きますし、一人で何時間も作業していても平気です。時々孫たちが来て話し相手になってくれたり、木材の切れ端で遊んだり、そんな時間も楽しいですよ。
職業訓練校を卒業して、二十歳くらいから約60年近くやっていますが、大変と思ったことはありません。覚えることも作ることも楽しかったですね。今でもまだ私は一人前ではないと思っていますので、生涯現役で学び続けていくつもりです。できれば100歳までは続けたいですね(笑)
13代目を引き継ぐ長男祥さんの思い。
親子二人三脚でこれからの藤本木工芸を築く
祥さん:
私は関東圏で建築会社を経営しています。幼い頃から当たり前に父の仕事を見て育ってきましたので、大人になるまでそのすごさがよく分かっていなかったかもしれません。でも、仕事などで関東の人たちに父の仕事のことを話すと、「それは引き継いでいくべき」と言われることが多くて。そういった周囲の意見もあって、10年ほど前から父の仕事も手伝うようになりました。
蔵の中にたくさんの古文書や資料が眠っていたので、まずはうちの歴史を紐解こうと3年くらいかけて整理しました。ご先祖が藤本家を必死に守ってきた足跡が見えてきて、自分もここを引き継いでいかなければと改めて感じましたね。まずは藤本木工芸の広報や受注の部分を充実させていきながら、現在は関東と出雲を行き来して父の仕事を手伝っています。
神棚づくりについては、私はまだ全体の3%ぐらいしかできません。やってみようとしても「まだダメだよ、10年はかかるよ」って父に止められます(笑)建築の仕事をしているので普段から大工さんが家を建てるのはよく見ているんですが、お宮づくりは細かすぎて、簡単には真似できませんね。ですから今は広報面などの手伝いを中心にして、父には作ることに専念してもらっています。私はまだ修行の身ですね。
この大社造りの神棚をこれからもっとたくさんの人に知ってもらって、地域の子どもたちや若い人たちにも桧物職という仕事に興味をもっていただけたらいいなと。父と二人三脚で、次世代につなげていきたいと思っています。
出雲人が薦める出雲
- 三歳社への遊歩道
出雲大社神楽殿の脇を素鵞川沿いに散歩をするのがお気に入りです。初夏にはホタルも見られるような自然いっぱいの遊歩道で、ぶらりと歩くだけで癒やされます。三歳社はこの遊歩道を10分ほど歩いた先にあります。
- 奉納山
子どもの頃からよく連れて行ってもらった思い出深い場所です。頂上からは稲佐の浜や大社町全体が見渡せて、上から自分の家や友だちの家を探すのが楽しかったですね。