人生を180度変えた魅惑のガラス
素材力と人の感性が作品を生み出す

ふの やすし

布野 康

(硝子工房 Zap glass studio )

出雲市出身。愛知教育大学の総合造形科のガラスコース専攻に入学。1999年に島根県奥出雲町ガラス工芸館「びいどろギヤマン瓶耀舎」入社。2009年にZap glass studioを開き独立。島根の若手職人グループ「しまねRプロダクト」の活動も行っている。

その事件は偶然?必然!?
ガラス花瓶が運命を変えた

そもそも〝モノづくり〟には縁遠い生活で、学生時代はソフトテニスに明け暮れ、大学は経済学部へ進もうと考えていました。そんなある日、ちょうど進路を決めるころに事件は起こりました。友だち数人と校長室に入ったときに花瓶を割ってしまったのです。担任の先生に謝罪したところ「接着剤を使って直しなさい!」と言われ、皆で立体パズルを作るかのように、元の形に修整しました。その時に、ふと「このガラス花瓶は、どのように作るんだろう?」と思ったのです。焼きものはテレビで見たり、出雲にも窯元があるので粘土をろくろで回して作ることは知っていたのですが、ガラスは馴染みがなく、高校生の自分には想像できなかったのです。

その時に興味がフツフツと湧いてきて「先生!美大の造形コースへ行こうと思います!」と軽い気持ちで話したところ「は?今からか??」と、とても驚かれました(笑)。それもそのはず、美術系の大学は学力だけではなくデッサンなど技術力も備わっていないと合格できません。当時、国立大学で唯一ガラスコースがあった愛知の大学に的を定め、まず美術の先生のところへ行き、デッサンの練習をしました。案の定、1カ月で上達する訳はありません。後から聞いた話ですが、2次試験のデッサンの時に試験官の先生たちの間で「絵が下手な生徒が受験しに来た!」と話題になっていたそうです(笑)なので、奇跡的に大学に合格したわけです。絵は今でも下手なのですが(笑)。

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道具扱いが不器用なことが発覚!
苦手なガラス制作にあえて挑戦する

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大学では1年生で陶芸や金工などを一通り学び、2年のときに専攻科目を選びます。自分は陶芸でろくろを回すと「君は陶芸家の息子か!?」と思われるくらい上手く作れたのですが、〝ガラスをやりたい!〟と思い入学したにも関わらず、ズバ抜けてガラス制作が下手だったのです。手で形を作るものは得意でしたが、道具を使って制作するガラスは、思いのままに形を作ることができませんでした。しかし、逆に悔しい思いから、ガラス専攻に決めました。できないからこそ、徐々にガラスにのめり込んでいったのでした。

大学卒業後は、大手ガラスメーカーでガラスを吹いていました。ちょうど4年経った頃に、島根県奥出雲町につくられるガラス工房のアシスタントを勤めることになりました。そこで10年働き、いざ独立して自分の工房を立ち上げたときに、朝から晩まで自分の好きなものを作れるとウキウキしていました。しかし、現実は全く違っていたのでした。

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日本、フランスの最大ギフトショーに参加
大きな土俵が自信や制作意欲を駆り立てる

はじめの1年は、作品数がなかったことと新しい窯に慣れるために、たくさんの作品をつくりました。しかし「売らなきゃいけない!」と気づき、販路を探し始めましたが、どこに声をかけていいのか分からないのです。2年経った頃に、島根県のブランド推進課から「東京で行われるギフトショーに出ませんか?」と声がかかりました。しかし『まだ地元でも知られていないのに、いきなり東京って??』と尻込みしましたが、島根県のモノづくり作家さんたちと一緒に参加することにしました。

展示会すら出たことがなかったため、ギフトショーでは真っ白状態。作品を並べただけで、値段の設定や商談の準備すらできていませんでした。販売店からは「卸値、決めてないの?」「こんな価格で売るんですか?」と言われる始末。余りに準備ができてない自分に落ち込み、食事の誘いも断り、土砂降りの中をポロポロ泣きながらホテルに帰ったことを今でも覚えています。

しかし、その悔しい経験がなければ、ガラスの質や自分のモチベーションが上がらなかったと実感しています。そんな初回のギフトショーでしたが、お声がかかった2社とは今でも繋がっています。

翌年の2012年には島根県のモノづくりをしている6人が集まり「しまねRプロダクト」というチームを組みました。そして、翌年には工芸のパリコレと言われる「メゾン・エ・オブジェ」に出店することになりました。話をいただいたとき『ヨーロッパはバカラが有名でガラス文化がある地域。自分の作品はどうみられるのだろう?』と不安でしたが、Rプロダクトの仲間と「世界を見てみよう!」と一致団結し、20132014年と連続してパリへ行きました。

メゾン・エ・オブジェでは、ヨーロッパの皆さんに受け入れてもらえました。それもそのはず、1個1個手づくりのため個性があること、研磨などの手間をかけていることに、とても驚かれ「Made in Japan」が当たり前に行っている技術力の高さに感心していました。その後、日本に帰ると「メゾンに出た」ということでお墨付きをいただき、百貨店からも一目置かれるようになりました。

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職歴20年、地域へ恩返し
ガラスが身近にある環境を作りたい

最初は「この作品どーだ!」という感覚で制作していましたが、取引の方から「このコップ使いにくいです。女性が両手で持たなければならないグラスってナシですよね!」と言われ、ハッと気づきました。ターゲット層にどう使われるかイメージを持って作らないといけないことに気が付いたのです。なので昔の恥ずかしい作品は手元にはないです。ガラスの良いところは、炉に入れて溶かせ、なかったことにできるのです(笑)。

これまで自分の思い通りの形にしようと思っていましたが、今はガラスがなるようになればいいと思うようになりました。遠心力を使ったり、ガラスがありその次に作り手がいるくらいの余裕があった方が良いのだと。職人歴20年、工房を立ち上げ10年になり、ようやくガラスを吹けるようになったと思います。

今は、いろいろなシーンにガラスを使う挑戦をしています。庭師さんと一緒にコラボをして、箱庭のトーチに、石とガラスを使い、水を流すなど、これまでガラス素材を置かなかったところにガラスを使う試みを行っています。

また、子どもたち向けにワークショップも行いたいです。自分もそうでしたが、高校のときにガラスの花瓶を落とさなければ、ガラスとの縁がなかったわけです。それなら、子どもたちがガラスと触れ合う場をつくり〝ガラスづくりって面白そう!〟と思ってもらえる環境づくりをしたいのです。そう!人生の転換期、どこであるか分かりませんから。

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出雲人が薦める出雲

比布智神社
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近所にある小さな神社です。氏子が管理や掃除をするなど、小さい頃から生活の一部となってます。毎月1日の朝に、お参りに行き心を清めています。

古代柱醤油醸造元
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最近、創業した近所の醤油屋さんです。ここの醤油がお気に入りで使っています。ドレッシングなどアイデア商品もあります。2019年に行われた第10回全国ご当地どんぶり選手権で1位になった「のどぐろ丼」のタレは古代柱醤油さんのものです。

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