一生家具職人
一つひとつ心を込めて。
家具で紡ぐ大切な時間。

はら りゅうすけ

原 隆介

(RYUNOSU furniture)

出雲市湖陵町出身。 高校卒業後、ガソリンスタンドで働いていたが、家具作りの面白さに目覚め県立東部技術校に通う。卒業後は市内の木工所に就職する。 一度ガソリンスタンドに再就職し、接客を学ぶため販売の仕事を経た後、 2012年にRYUNOSU furnitureを設立。 家具職人として活動している。

インテリアの大切さを教えてくれた奥さんとの出会い

市内平田町で自社工房を構え、オーダーメイド家具製作、デザイナーズ家具、ヴィンテージ家具の販売や家具の修繕などをしています。工房隣の雑貨店では、国内外の選りすぐりの雑貨などを取り揃えています。

実は元々は家具に興味がなかったんですよ。高校卒業後は家具とは関係のないガソリンスタンドで働いていました。

若い頃はスケボーをしていた影響アメリカの文化が大好きで、アメリカの服とか靴には興味があったんですね。めちゃくちゃ家具が好きな親友に、「服とか靴は凄く好きなのに、なんで部屋にはこだわらないんだ」ってよく言われていました。

そんな時に当時彼女だった奥さんに「あなたの部屋はすごくダサい」って言われて「あ、俺の部屋ってダサいんだ」って初めて気づいたんですよね。具体的に言うと、すごく清潔な入院患者の部屋みたいな。「なんかつまんないこの部屋」って。ということで、手始めに僕の誕生日に、奥さん素敵な照明をプレゼントしてくれました。照明を吊るしたら「あ、すげー!俺の部屋じゃないみたい!」って。その後は、ことある毎に奥さんが部屋を改造していくんです。ベットにブランケットをかけただけでも全然違う。そしたら僕もどんどん面白くなってきてね。

もっとこだわりたいと思っていろいろなインテリアを見るようになりました。自分の好きなジャンルといえばアメリカ。そういう家具を探していたらイームズの椅子と出会ったんです。なんてかっこいいんだ!って衝撃でしたね。

それで自分でも何か作ってみようと始めたのがDIY。さすがにイームズみたいな椅子は作れないけど。今思えばほんとにちょっとした物だったんですけど、のめり込んじゃって、すっげー面白い!って。

これはもう仕事辞めて技術校通う!ってなりました。技術校では家具作るのが楽しくて楽しくて。毎日学校に残って作ったりしましたね。通った1年は凄く短かった。自分の好きなものを作って、先生はなんでも丁寧に教えてくれる。その時はほんと甘い世界ですよね。

卒業後は、市内の木工所で働きだしました。そこでの修行の日々では、色々なことを教わりました。今までは趣味で楽しくやってきたんですよね。でも実際にお客さんに対して家具を作るっていうのがどれだけ大変か思い知らされました。納期に追われる厳しい環境に負けて、今まで楽しかったことが楽しくなくなってしまった。それで残念ながら辞めてしまったことに後悔が残りますね

結局古巣のガソリンスタンドに戻りました。社長からも「戻ってこーい」って言ってもらえてね。原点なんで。奥さんと出会ったのもそこだったし。

それでも家具を作ることは止められませんでした。まあ趣味みたいにやりながらいつかお店でもやりたいと思っていたんです。そしたら木工の機械が入札にかけられるという話が舞い込んできました。これは買うしかないと。でも作業場がないので場所を探すことに。奥さんの地元が平田なので、気づけば平田の町が好きになっていました。ここだったら自分の好きなところがたくさんある、お店やるなら平田がいいなって漠然と考えていたんです。そして、今の場所を見つけたんです。最初は元々あった建物を作業場として使っていました。仕事をしつつ趣味で作るって感じです。自分の好きなものを作るだけなので、たいそうなものは作ってないんですよ。工房で使う台とかね。

ガソリンスタンドの仕事をしながらも、もっとお客さんと関わる接客がしたいと思うようになってきました。お店にある商品を自分でお客さんに販売したいなって。それで販売の仕事を探して、米子に本社のあるお店に勤めることになったんです。そこで初めて接客ということも学んだし、物を売ることの難しさも学びました。最後は店長になって、売上を上げることもできました。二人でいつかやりたいお店を夢見ながら、この頃奥さんがデザイン学校に入ったんです。卒業と同時に家具屋をやるなら今だと思い作業場の隣に家具店もオープンすることにしたんです。

最初、奥さんは他の仕事をしながら半日だけ店番をしてもらっていました。お店も軌道に乗ってきた頃、もっと一緒に商売がやってみたいと思い、2018年に同じ敷地に奥さんの雑貨店をオープンしたんです。

奥さんは僕の師匠ですね。家具のデザインを決めるときは、よく相談しています。奥さんとの出会いが僕をここまで連れてきてくれたんですよね。

850x 287a1660

850x 287a1677

960x 287a1115

ターニングポイントになった3人の出会い

850x 287a1340

850x 287a1427

イームズを好きになったのが家具に興味を持ったきっかけなんですが、松田優作さんが好きで、映画のポスターで座っていたラウンジチェアが欲しくて欲しくて!

北欧家具、アメリカ家具、イタリア家具など色々あったんですけど、20代の自分が好きだったのはイームズとかのアメリカ家具でした。

デンマーク家具も当時日本に入ってきてたけど、90〜2000年台前半で少しづつ地元で知られてきた感じかな。

僕が独立をした時は、インダストリアルの家具に魅かれていたのでスチールと木を融合した家具を売りにして製作していました。その当時は自分にできる最大限やっていましたが、振り返ると本当に視野が狭かった。

そんな時に囲炉裏整髪堂の藤原さんに出会いました。美容院の家具を作る依頼が来たんです。その頃の家具は何かの真似が多くて、何を作りたいのかずっと模索している状態でした。Irori hairの大改装ということで、お店のほとんどの家具を作ることになりました。

そこで自分が知らなかった世界のデザインを藤原さんに提案されたんです。イギリスのクラシックのようなデザインでした。最初は戸惑いましたがやってみようって思って。あのスタイルに出会って、自分の家具も少しずつですが洗練されていった感覚はありました。その時初めて自分が進むべきデザインはこういうことなのかなと感じました。

後々分かったことですが、多くのデザインに触れてもいないのに好き嫌いを決めてしまうのは本当にもったいないことだと気付きました。こういった思いにさせて頂いた藤原さんに本当に感謝でしたね。

それがなかったらどんなものが作りたいのか分からず、今でももがいていたのかもしれない。その後は2年くらいそのデザインを探求していましたね。

次の出会いはお店のお客さん。日本でも有数の家具コレクターの方で、うちに修理の仕事を持ってこられたんです。その時初めてデンマーク家具のヴィンテージに出会うんですね。「かっこいい!なんだこれ」ってなって。

イームズも好きですけど、作れないし、こういうものだったら作れるかもしれないって思いました。その方の家で色々教えてもらい、見ているうちに自分の物欲も止まらなくなっちゃって。そこでヴィンテージ家具を専門で販売しているSwanky Systemsのオーナーを紹介してもらいました。

世界でも有名な方で、関西を拠点にヴィンテージバイヤーとして活動されています。その方に色々と教えていただきました。

ある時Swanky Systemsのお客さんで地方のほうに住んでいる方が、自分の地元ではなかなかこんな家具を見る機会がないってことを言われたことがあるそうです。それで、「出雲もこういうものを見る機会がないかもしれないね、原さんのお店で展示会しない?」って言ってくれて。

「是非やってください!」って即答ですよ。その時は一大イベントになりました。大勢のお客さんがきたし、沢山の家具が次のオーナーへと引き継がれました。

家具を並べたときの空気感というか、一気にその場がデンマークになるんですよ。奥さんが照明を変えてくれたときとはまた別の衝撃です。そこからデンマーク家具っていうものがどういう思いで作られているのかとか、どこに作者がこだわりを持っているのか考えるようになりました。そうしたら自然と自分の家具に落とし込めるようになってきたんですよね。

どんどん自分の見る目が変わってきたのを感じました。いいものを見るのってとても勉強になるし、見ないとできないことって山ほどあるなって思いましたね。

960x 287a1207

いつまでも使い続けてほしいと家具に込めた想い

2023年11月にやった展示会も好評でしたね。うちのお店は口コミのお客さんばかりですけど、常連のお客さんが多いんです。

うちで家具を作ってくださるお客様はヴィンテージが好きな方が多いんですよね。ヴィンテージで探すけどぴったりなものがないって言われるんですね。サイズが大きいんですよ。海外ヴィンテージって。そこでうちでフルオーダーで頼まれます。家を建てる時に、家具をすべて発注してくださることもよくあります。個人店などのお店の場合もありますね。

デンマークって家具に対する愛着が日本人とは比べ物にならないんです。日本では時計を買うか車を買うかが贅沢じゃないですか。デンマークでは初任給で家具を買うんですよ。それくらい家具に対する特別な思いがあるんですね。いい家具を所有した時の感動を皆さんに知ってもらいたいんですよね。

僕は日々家具のことしか考えてないですね。自宅にいても集めた家具を「あ〜かっこいいな、美しいな」ってずっと見てます。ずっと欲しかったイームズの椅子も、手に入れましたよ。僕が家具を買うときは、珍しいものを買うようにしています。自分の参考になるように。僕が家具を集めるのに一番大事にしているのが、初期型と言われる復刻物じゃないもの。見ているだけでも1mm1mmを大事にしないといけないことが凄く分かるんですよ。1950年代当時は今のような厳しいPL法(製造物責任法)がなく、デザイナーや職人が使い手のことも考えながらも自分の思うがままに新しいデザインを生み出した。この頃の彼らを現在も尊敬し目標としている木工職人も多いと思います。見て構造を考えるだけでも凄く勉強になるんですよね。

家具の修理もたくさんしてますね。修理が一番嬉しいんですよ。長く大事に使ってるんだなって思うから。うちの家具買っても大事にしてくれそうだな〜って。でも自分が作っていないものの修理って凄く難しいですね。どんな構造でできているんだろうっていう考察から始まります。失敗は1回だけあります。北欧の良い家具は構造自体が複雑で手順を間違えると破壊されるんです。そのことを理解できていない頃に仕入れたテーブルを壊したことがあります。外れなくてパーツが折れちゃった。それはもうパーツを作り直しました。この経験はとても勉強になりましたし、お客様の家具修理にも生かされています。大事にされた家具が奇麗になって喜んでいただける姿を見ると、ほんとに嬉しいですね。

850x 287a1363

850x %e8%bf%bd%e5%8a%a0%e5%86%99%e7%9c%9f

960x 287a1617

目標はずっと家具を作り続けること

ずーっと1つのことを続けるって大変なことじゃないですか。中学から22歳くらいまでスケボーを本気でやっていたんですけど、止めちゃったんですよ。凄く後悔したんです。それで2020年のコロナ渦になってからやることないし、スケボーをまた始めることにしました。また始めて、あんなに好きだったのになんで止めっちゃったんだろう、ずっとやればよかったって思ったんですよね。

とにかく今までは1つのことを続けることができなかったので、難しいけど続けることって大事なことだなって気づきました。

だからとにかく家具屋と家具を作ることを、ずっとやり続けたいなと思っています。スケボーも体が動く限りは続けたいですね。

850x dsc02844

960x b678f594 8eeb 49e9 a640 269ecf1b5ae4

出雲人が薦める出雲

湖陵の海
350x %e6%b9%96%e9%99%b5%e3%81%ae%e6%b5%b7%e5%86%99%e7%9c%9f

僕の地元の海です。休みの日に実家に帰ったら必ずそこに行きます。昔から変わらない大事な場所です。

湖陵の差海川のシジミ
350x img 1543

めっちゃうまいですよね。粒が大きくてふっくらしています。

Default

ページの先頭へ戻る