ひとつひとつの木片から作られた美しい球体の組子細工が織りなす癒しの灯

いとが さちこ

糸賀 祥子

出雲市出身。 神灯行灯(かんなびあんどん)の職人 多々納弘光氏に師事。 亡師匠の伝統を受け継ぎ、守り続ける神灯行灯職人。

建具の伝統的手法「三つ組手」を用いた「神灯行灯」との出会い

私の師匠 多々納先生は建具職人でしたが、「これから先どんどん仕事がなくなるだろう、何か世にないものを作らないといけない。」と考えていたそうです。そして、作った建具を乾かしている間に、偶然、物が乗ってしまったけれど、組子は折れず、たわんでいたんですって。それを見て、球体になるんじゃないかと試行錯誤して曲げられたことが「神灯行灯」の始まりでした。偶然の出来事ですよね。約8年かけて「神灯行灯」ができたそうです。

そんな「神灯行灯」と私の出会いは、島根県の伝統工芸を色々知りたいと思って調べたことから。今から7年半前くらいかな。伝統工芸では一番に目に入ってきたのが「神灯行灯」でした。組子細工の存在は知っていたけど、この「神灯行灯」を見た時に、組子細工が曲がっている意味が分からなくて。この目で実際に見てみたいと思ってすぐに多々納先生に電話してみたんです。

先生から、「何しに来る?買ってくれるもんしか家には入れん」って言われました。私は「どうしても見たいんです!」と粘り、なんとか「じゃあ来るだわ」と言っていただきました。

行灯に明かりをつけてもらった時にものすごく涙が出てきたんです。その後、先生は2時間くらい作品について熱く語られました。めっちゃお喋りだったんですよ!

最後に、「自分ももう80歳になるし、後継者のことを考えている。あんたどうする?」っていきなり言われて・・・。私は見に来ただけのつもりだったけど、「じゃあやります!」と自然に答えていました。

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似たもの同士の師匠と弟子

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先生は建具時代から弟子を1人も取っておられませんでした。私が最初で最後の弟子なんですね。私が弟子入りした時は、他人が職場にいるのが嫌だから、自分の家でやって分からんときだけ来てって言われました。家は場所がないからここにいさせてください!と、なんとか同じ空間で作業させてもらうことはできたんですけどね。お互いに1人が好きで、短気で、似たもの同士で気が合ったんですね。

最初の3年くらいで全部教えてもらいました。私としては、そんな一気に教えてもらわなくても・・・のんびり教えてもらったらと思っていたけど、先生は「そういうわけにはいかない、全部教える」って。失敗はいっぱいありました。失敗してから先生は、こうなんだよと教えてくれる。そうすることで確実に自分の技術になっていったんですね。自分のことは自分で、先生は先生一人で、同じ空間だけど別々の工房という感覚で作業していました。

めちゃめちゃ元気な80歳で、100歳まで絶対生きるような人だと思っていたんです。その後、入退院を繰り返され、2020年の3月に亡くなられました。5年くらい一緒にいましたが、とても良くしてもらいました。先生が入院した時にもらった手紙は大切にしてあります。

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趣味は読書とライヴ

元々は実家の会社の事務員でまったく違う仕事をしていましたが、高校は建築科で、短大はイラストレーション専攻と、物作りはもともと好きでした。職人って、気が短い人に合っていると思うんです。人よりも短い時間でいいものを作ろうとするのが職人ですから。今回失敗したけどまたゆっくり作ればいいと思わずに、すぐに失敗を取り返そうとしたり、失敗すると自分の方法で自分のやり方でできるんじゃないかと考えて実行するのが短気のいいところなんじゃないかな。私はめっちゃ短気だから!

普段は基本的にずっと本を読んでいます。休みの日は1日1冊は必ず読みます。漫画でも小説でも、字があればなんでも読みます。あとはライブハウスのアポロへもよく行きました。でもここ1年以上、新型コロナウイルスの流行の影響でライブがないのが悲しいですね。早く以前のように思いっきり楽しみたいです。

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見る人によって感じ方の違う行灯

行灯は和室のイメージがありますが、どこに置いても違和感のないようなデザインを作るのが目標です。先生の作られた元々の台は、ガッチリしていましたが、私なりに変えていっています。いずれはまん丸で台が見えないものを作りたいですね。

行灯の魅力は私からは表現できません。見た方が自由に感じられるものだと思っています。生活の一部の実用品だと思われる方もいれば、芸術品だと思われる方もいる。なんだこれ、値段が高いわと思われる方もいらっしゃいますし、人によっては過去も見えるし未来も見えるって言われます。見られる方の心を映しているんでしょうか。

自由に感じていただきたい。そう思います。

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出雲人が薦める出雲

素鷲社
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出雲大社の本殿の裏にあるお社です。先生が亡くなられる1ヶ月前くらい、いよいよ危ないぞという状況になった時に、先生の最後が穏やかでありますようにと毎日お祈りに行きました。今も毎月1日にお礼参りに行っています。

出雲
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今の自分でいられることって家族と友人とライブハウスのおかげ・・・と考えた結果、出雲に生まれてよかった!っていう結論が出ました。
出雲大好きです!

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