モノには思い出がいっぱい
宝石リメイクで時を紡ぐ

加田 佳男

(宝石工房KADA)

出雲市出身。代々、職人の家系で祖父が加田時計店を開業。東京の宝石メーカーに就職。出雲の大型ショッピングセンターへの出店と同時に帰郷し店を継ぐ。時計、宝石、眼鏡の販売を経て、現在は「宝石工房KADA」として宝石の販売と宝石のリメイクをメインとしている。

ご先祖は飾り職人
職人の血を継ぎ時計店、そして宝石店へ

出雲市街に〝加田町〟という地名があり、昔は職人の町で私のように「加田」という苗字の人がたくさんいたようです。その町で江戸時代の先祖は、かんざしなどを作っていた飾り職人でした。明治時代になり祖父の頃には、かんざしやキセルの需要が次第に減り、一度商売を畳みました。しかし「それじゃいかん!」ということで、松江の時計店へ行き、時計の修理の修業をして技術を身に付けたそうです。1年後に出雲へ戻り、ここ中町で加田時計店がはじまりました。今は「宝石工房KADA」となっていますが、社名は「加田時計店」のまま。近所の人からは「時計を売ってないなー」と皮肉を言われたりします(笑)。しかし裏を返せば「時計店」の方が町の人の記憶に刻まれているのでしょうね。

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先々代から伝わる、100年以上前に作られたドイツ製の時計。

時代の流れと共に店も変わる
自分が出来ることを商売へ

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この中町商店街は、今は閑散としていますが、昭和の高度経済成長期の時代には、とても賑わっていました。戦前から時計店をはじめ、戦後のモノがないときを経て、モノが売れるいい時代をこの商店街と共に過ごしてきたわけです。しかし、大型ショッピングセンターの進出に伴い、中町商店街に人通りが少なくなってきました。商売の方も時計の流行りが〝クオーツ〟となり、次第に時計の修理もなくなってきました。

そこで次に考えたのが多角経営です。加田時計店は父の時代となり、宝石、眼鏡も売り始めました。そのタイミングで大型ショッピングセンターへ出店する話があり、中町の店を閉めショッピングセンターへ店を移転しました。

私はというと、その頃は東京の宝石メーカーで働いていました。家業の時計、眼鏡、宝石の中では〝宝石〟に興味があったので『将来は宝石職人になれればいいな!』と思っていましたが、ショッピングセンター出店に伴い出雲へ呼び戻されたのです(笑)。時代はちょうどバブル期の後半。営業をしなくても宝石が売れる時代でした。

しかしバブルがはじけて、ショッピングセンターが倒産。各店舗に閉店を告げられたのは忘れもしない2月29日のうるう日。もちろん目の前は真っ暗です。しかし私には、ここ中町に店舗があったのが唯一の救いでした。

ショッピングセンターを撤退した5日後に、完全ではありませんでしたが店を始めることができました。

その頃、眼鏡は大型チェーン店が出雲にもあり、宝石も売れなくなっていました。〝ニーズはどこにあるのか?〟〝自分ができることは何だろう?〟と思った時に思いついたのが「宝石のリメイク」だったのです。

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リメイクの原型となるワックスモデルを製作中。

お客様の想いを汲み取り
宝石を新しいカタチに生き返らせる

宝石商売は、時には大金のやり取りがあるので、お客様との信頼関係がないと出来ない仕事です。大変ですが商売的にはやりがいがあり、もちろんお客様にも喜んでいただいていました。しかし、それにも増して宝石のリメイクは、お客様の喜びがさらにダイレクトに伝わってくる仕事だったのです。

例えば、リメイクする宝石は、お祖母さんの形見やお母さんの形見などが多く、それを直して新たにカタチとなって生き返るわけです。しかも思い出を継ぎながら、さらにリメイクされた方の要望に応じたアクセサリーとなります。

先日は、奥さんを亡くされた50代の男性が来店されました。奥さんの結婚指輪をリメイクして身に着けたいということでした。男性が宝石をリメイクすることは珍しく、よっぽどのことだと思いました。その指輪を見ると、奥さんが長年付けられていたことで指のカタチに指輪が少し変形していたのです。それを溶かして他のモノにするのは忍びないと思い、そのカタチを残しつつ、ご主人が身に付けられるようにペンダントにしました。

実は宝石の技法上、指輪をペンダントにすることは、そんなに難しいことではありません。しかし、そこには「想い」があるのです。完成したペンダントを見たご主人から感謝と喜びの声をいただきました。同時に、この仕事をしていて、心から良かったと実感しました。

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以前リメイクした真珠のブローチの磨き直し。

人と関わる仕事は消えない
良い商売は感謝されること

私は自分のことを「ジュエリーコーディネーター」だと思っています。リメイクの仕事はお客様とのコミュニケーションが命。まず自分を知ってもらい、またお客様のことも知りつつ、好みやリメイクの方向性、使いたいカタチを汲み取ることが必要となってきます。以前よりも素敵なアクセサリーに生まれ変わるように、私が橋渡しをしているところです。

近年は、ITの普及で様々な仕事が淘汰されてきつつあります。しかし、人を介する仕事はなくならないと思うのです。昭和の激動の時代を経て、商売の浮き沈みもありましたが、こうして商売の価値観が分かったことは良いコトだと思います。仕事はお金だけでは続けられないはずで、興味の湧いたものをやっていた方が幸せなのかもしれません。しかし、好きだけでは生きていけないので、さすがに食べられなくなったときは考えないといけないですけどね(笑)。これからもこの仕事を通して、人と関わっていく仕事をしていきたいです。

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「持ち主の人生と共に、輝きを見守っていきたい」と語る加田さん。

出雲人が薦める出雲

旭日酒造
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十旭日が大好きです。コクがありどっしりとして風格がある深みのある味わいです。日本海のおいしい魚とあわせると最高ですね。いつも妻と一緒に晩酌をしています。

粉屋こん吉堂
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明石焼き屋さんです。明石焼きももちろん美味しいのですが、御主人は日本酒にも詳しく、ここのにごり酒の熱燗を飲んでから日本酒にハマりました。日本酒の好きな方におススメの店です。

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