人と人とのつながりを照らす
出雲の灯台であり続けたい
長瀬 理更
(Coworking House Majakka)
幼少期は広島、益田で過ごし、中学2年生の時に父親の実家のある出雲へ移住。 美術史の勉強をするために東京の大学へ進学。 大学卒業後は美術館の立ち上げスタッフとして関わり、 その後は、コンサルティング会社の勤務などを経て2018年にコワーキングハウスマヤッカをオープン。Majakka(マヤッカ)とはフィンランド語で灯台という意味。 コワーキングスペースの経営の傍ら、ウェブサイト制作や様々なイベントを企画・運営している。 コワーキングとは、異なる職業や仕事を持つ利用者がオフィスを共有しながら独立した仕事を行う共同ワークスタイル。
突っ走り続けた20代の日々
大学では美術史の勉強をしていたので、そのまま東京で美術系の仕事をしようと思って就職活動を始めていました。ですがその年は島根で公立の美術館の立ち上げが決まった年で、元々ずっと美術館で働きたかったし、美術館の立ち上げにゼロから関われることなんてこの先一生ないと思って、就職活動を全部やめて学芸員の採用試験を受けることにしました。ただ、学芸員って狭き門なんですよね。わかってはいましたけど、採用1人に対して何百人も受けに来て、会場に入った瞬間からこれはダメだなと思いました(笑)。実際ダメだったんですけど、でも諦めきれなくて、美術館準備室の責任者の方のところまで行って、何でもやるのでスタッフとして働かせてください!!と直談判したんです。それで何とか働かせてもらえることになって・・・。
3年ほどそこに居たのですが、これまでもこれからも経験することは出来ないであろう貴重な経験をたくさんさせてもらいました。一方で学芸員という仕事を間近で見てその大変さを痛感しました。当時はワークライフバランスとか育児休暇も当たり前ではなかったし、いろいろ女性としての人生も諦めきれなかったんです、私。あの頃はそれを捨てないと男性と同等には渡り合えない世界に思えたこともあって、契約の区切りで退職しました。小さい頃から学芸員として働きたかったんですよ。他にやりたいと思える仕事もなくてそれからは今思うと本当にずっと模索していましたね。デザイン系の仕事をしたりその後は子どもの出産などで途切れ途切れで働きつつ、松江から出雲に戻るタイミングで建設コンサルの仕事をしている会社に拾ってもらいました。元々はデザイン畑出身だったので、CADとか使えるわけじゃないんですよね。でも何故だか面白そう!と思って応募したんです。面接も周りがリクルートスーツの中、私だけ普通の格好で行ってしまって、あぁ〜これはマズイなと思っていたのに、採用してもらって本当に有難かったです。後から社長に聞いたら、「長瀬さん、首に赤いスカーフを巻いてきたのは衝撃だったわ」って。
私は何か特別な才能やスキルがあるわけではないので、とにかく今求められていることをやらなきゃと、その繰り返しでやってきました。勤めていた会社では、まだ周囲で使っているところも少ない特殊なシステムを本格的に導入するということでそれを使えるようになってと言われ、最初は手探りすぎてほんとに半泣きでやってました(笑)。何年かして今度は「これからはウェブサイトの時代だから、サイトも作れるようにならない?」と。これは一体どうやって作られているんだろう??というレベルで、今みたいにウェブの勉強会もないし見様見真似で覚えました。もうとにかく必死でしたね。でも未知なるものへの好奇心が何物にも勝る性格なのでどの仕事も勉強させてもらって良かったと思えることばかりです。
人と人がつながる仕組みづくりをしたい
会社に勤めながらぼんやりとこれからの人生を考えていました。会社や上司から求められることではく、もっと広い地域から求められているようなこと、今度はこれからの次世代に求められることがやりたいと思い始めていました。でもそれがなんなのかその当時には分からなくて・・・。
小さい頃からいろいろな場所に移り住んでいましたし、地域に思い入れや関心とか、もともとはそんなになかったんですよ。でも当時勤めていた会社では地域振興に関わるようなお仕事が多かったんです。その中で本当にいろいろな方と出会えて、お話を聞く機会も多かったんです。そうしているうちに、島根ってすごいな、すごい思いを持った人がたくさんいるんだなと初めて気付いて、そういう面白い人たちと関われる場所というか、そんな面白い人たち同士が繋がって更に次のステップへ踏み出せるような場所を作りたいという思いが芽生えたんです。
当初はレンタルスペースをやろうかなと思っていたんです。ワークスペースがあって、料理なり作業などをみんなで一緒にできるような場所を貸すみたいなことですね。でも、そうすると自分がいなくても成り立つというか、ただの場所貸しでは自分のやりたいこととちょっと違うかなと思ったんです。もっと積極的に自分がハブ的な役割で回していけるようなことがやりたいと思いました。ちょうどその頃コワーキングという働き方を知ったんです。
ですが、人口わずか17万人ほどの地域でコワーキングスペースをやっている人なんてほとんどいなかったんですよね。なのでまた手探りの日々になりました。比較的人口の少ない地方のコワーキングスペースのオーナーさんにお話を聞きに行ったりもしましたね。やりたいことはこれだと思ったんですけど、今度は場所をなかなか確保できなくて。
絶対駅近でやりたかったんですよ。出雲はみんな車を持っているから郊外でいいじゃないと言われたりもしましたけど、飲食やお酒を絡めたイベントも一緒にやりたくて、そうなると車で行けないし、電車も利用して遠方からも来られるような場所が良いと思っていました。今市近辺では飲食店の居抜きはちらほら出ていたんですけど、自分の求める条件のところがなくて気付くと探し始めて2年くらい経ってしまいました。
諦めかけていたら不動産屋さんから変わった間取りの物件が出ているから見てみないかと連絡があったんです。3階建ての古民家で、見たらすぐに気に入り今の場所に決めました。
こんにちは、さようならで終わる関係にはしたくない。
5年くらい前はコワーキングという言葉自体出雲市では知っている人はほとんどいなかったんですよ。準備を始めた時に行政やいろいろな機関に相談に行っても「それはなんなんですか?」ってところから始まって。
今は新型コロナの影響もあってリモートワークも普通になってきたので認知もされつつあるのかな。これからは全国のコワーキングスペースさんともっと連携して業界全体を盛り上げていきたいですね。
利用者さんは出張の方や近くの方といろいろです。当初はお仕事での利用が多かったですが、最近は学生さんの利用も多くて、勉強する場所としても利用されます。本当に可愛いんですよ大学生さん。来るとおやつとかあげちゃいますよ。「どう?はかどってる??」なんて声かけて。娘も大学生なので、あの子たちを見ると重ねちゃいますよね。「女将」と名乗ってますけど、受付のおばちゃんや番頭さん的役割で初めての方が使用されても、場を温められる存在でありたいと思っています。
お部屋の貸切利用もしているので、オンラインで面接しておられる方やウェブ会議をされる方も増えました。畳のお部屋は整体師の方に使っていただいたり、一番びっくりしたのがお食い初めをここでされたご家族もおられました。とても嬉しかったですね。ローカル感たっぷりだし、ゼロ歳児最年少利用者さんですもの(笑)。
出張で来られた時に利用されて以来、近くに来たら必ず寄ってくれる方もいらっしゃいます。そういう方がポツポツ増えてきたのは嬉しいことです。近況報告を聞くのも楽しいですね。
うちで企画するイベントでは酒蔵さんがすぐ近くなので、協力していただくことも多々あります。地元の日本酒、こんなに美味しいんだよって知ってほしくて。酒蔵さんに限らずそんなふうに、地域の多様な業種の方と繋がって全体で盛り上がっていくということが大切だと思っています。
最近築70年の家に引っ越しをしたので家のプチDIYにハマっています。屋根に上がって塗装したり、外壁も塗装業の知人に教えてもらいながら娘と頑張って塗りました。この前はボロボロだった襖を自分で張り替えました。本格的なのは業者さんでないと難しいですが、古いおうちは意外と自分で出来ることも多いので時間をかけて楽しみながらやろうと思っています。
こんなふうに、出雲の空き家を使って自分たちでリノベーションする企画も面白いなぁと思っています。出雲市の空き家を若い人たちに、もっと関心を持ってもらいたいという思いもあります。そういうのもあって自分も古民家に住んでみるっていうのをやっているんですけどね。
実は今同じ思いの仲間と法人化して本格的に動き出そうかという流れにもなっています。
目指すのは、第二のふるさと的コワーキングスペース。
若い頃から旅をするのが好きで、バックパッカーで海外を歩いてきました。数年前に行った東南アジアでは本当に様々な働き方をしている人たちに出会いました。季節や仕事に応じていろいろな場所に移動し、1週間や数か月間と一定期間滞在し、そこで普段通り仕事をする。そんな滞在型のコワーキングを日本でももっと広めたいです。
日本の主な観光地や首都圏に行き尽くしている海外のノマドワーカー(ノートパソコンやタブレット端末などを使い、Wi-Fi環境のある喫茶店など、通常のオフィス以外のさまざまな場所で仕事をする人をいう。)と呼ばれる人たちは、日本の地方部にも興味があるという声を聞きます。ですが、まだそういった地方の情報はほとんど発信できていません。国内外問わずそんな人たちに向けてどんどんウェルカムな情報を発信していきたいし、宿泊は近隣のゲストハウスと提携したり、さっきお話しした出雲の空き家を活用したシェアハウスなどの活用も考えていきたいです。滞在しながら地元の人たちやお店などと交流し、日常の中で人と関わり、移住とまではいかなくても、あそこにまた帰りたいなと思ってもらえるような第二のふるさとのような場所にしたいんですよね。
そんな自由な働き方がどんどん増えたら良いなと思います。
これからも私自身がここにいることも大事ですけど、いろんなところに出かけていろんな人に出会うことを積極的にしていきたいです。コワーキングスペースなのにオーナーがコワーキングしに出かけるっていうね(笑)
出雲人が薦める出雲
- 出雲富士 純米吟醸−超辛口− 青ラベル
超辛口の純米吟醸酒です。穏やかだけど、しっかりとした辛口の余韻が特徴的で大好きなお酒です。
- なぎら長春堂さんの本わらび餅
ふわふわの、まるで雲を食べているような口溶け!口に入れた瞬間の幸福感はたまらないです。