野菜のおいしさをそのままに
地域に根づいた漬物づくり

なりあい ゆきこ

成相 由紀子

(有限会社けんちゃん漬 取締役 総務部部長)

出雲市出身。管理栄養士として病院や介護施設での勤務を経て、2011年にけんちゃん漬に入社。野菜の旨味や栄養素をまるごと閉じ込めたような贅沢な漬物は、県内外から人気を集めている。現在、3代目を引き継ぐため日々修業中。

はじまりは、地域のために始めた「八百屋さん」

「けんちゃん」というのは、私の祖父である成相賢二の愛称です。祖父が戦争から帰ってきた頃、出雲の食糧事情はかなり悪かったと聞きます。もともと地域貢献が好きだった祖父は、地域の人たちが野菜を手に入れやすくなるようにと八百屋を始めたんですね。その八百屋の経営の傍ら、野菜を使った漬物や惣菜を祖母と一緒に作って売りはじめたところ、その漬物が好評だったようなんです。それでご近所の方たちから「けんちゃんが漬けた漬物」ということで、「けんちゃん漬け」と呼ばれるようになりました。

その後、昭和47年に「成相漬物店」を創業。祖父は出雲の青果市場の立ち上げにも携わったりと、良質な野菜を流通させる仕組みづくりに尽力していましたが、市議会議員に立候補することになったため、昭和63年に私の父が2代目として引き継ぐことになりました。そのタイミングで社名を「けんちゃん漬」に変更し、今年でちょうど50年を迎えます。

よく父が言うんです。子どもの頃、朝になると包丁のトントンという音が聞こえてきて、その音が心地よくて目が覚めたって。野菜や漬物を切ったり、お惣菜を作ったりする音だったと思いますが、それって幸せの音なんですよね。そういう温かみを感じられる「家庭の味」が、けんちゃん漬の原点かなって思います。

私自身も、小さい頃からいつも暮らしの中に漬物づくりがありました。今は工場を移転しましたが以前は自宅の隣に工場があったので、夏に窓を開けるとウリを干すにおいや、粕漬けの香りがしていました。私は3人兄弟ですが、夏休みになると兄弟みんなで商品のシール貼りのお手伝いをしていた事もいい思い出です。

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「私にとって、けんちゃん漬のない人生は有り得ない」

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今、父が二代目で、ゆくゆくは私が3代目を引き継ぎたいと思っています。でもそれはずっと前から決めていたことではなくて、以前は栄養士の仕事をしていました。

うちの家庭は祖父の代からみんな食いしん坊で、食事の時間がとにかく楽しくて、何を食べるかという話が一番盛り上がる家庭だったんですね(笑)その影響もあって、私も自然と食に関する仕事に就きたいと思い、大学を卒業して管理栄養士の資格を取り、病院や介護施設で働いていました。

そして結婚が決まったころ、ふと「私が継がなかったら、けんちゃん漬はなくなるかもな」という思いがよぎりました。その時なんというか、私にとってけんちゃん漬のない人生なんて有り得ないなって思ったんです。例えば病院で栄養療法に携わる中で、たった一口でも食事によって生きる力が湧いてきたり、元気になったりする方を見て、食事ってやっぱりすごい力があるんだなと感じました。そうした食の大切さをたくさんの人に伝えたいと思い、せっかくなら家業を通して伝えていきたいと思ったんです。そして私もけんちゃん漬の一員になることを決めました。

勤めていた病院を退職して結婚し、けんちゃん漬に入社したのが2012年、出雲大社の正門前に店舗を出店したのが2012年、そして現在の場所に工場を新設したのが2014年と、その数年間は本当にめまぐるしく状況が変化しました。会社にとっていろんなことの転機というか、いい風が吹いていたんだなぁと振り返って思います。

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手間がかかっても“手作り”にこだわる理由

今はかなり商品数も増えて、ざっと100種類以上はあるんじゃないかと。県内外で商品ニーズも少し違いがあったりしますが、うちの看板商品としては、冬は津田かぶ、夏は青しま瓜の漬物でしょうか。どちらも島根県の伝統野菜なんですよね。昔から地域で親しまれた味を守り、その魅力を知ってもらうのがうちのポリシーでもあります。

そしてうちの一番の特徴というかこだわりとしては、すべて手作りというところです。手作りは手間がかかりますが、そのぶん、野菜の味を生かした漬物をつくることができます。うちは元が八百屋だったということもあり、祖父の代から何より“野菜の鮮度”を大切にしています。そのこだわりたるや、もうこれ原価計算できてないんじゃないかなって思うくらい(笑)「見てごらんこの野菜、惚れ惚れするだろう」なんて父が言ってて(笑)正直、少しくらい鮮度が落ちた野菜でも、漬物にしたら見た目は分からないかもしれませんけどね、でも野菜の鮮度で味が全然違うんです。野菜そのものがおいしいと、それが塩の効果でさらにおいしくなってくれる。その野菜の良し悪しが、自分たちのモチベーションを上げてくれてるところもありますし、お客さんから「出雲の漬物はおいしいね!野菜の味がするね」って言っていただけることがうれしいですね。

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地域のためにも次世代に繋いでいける漬物を作りたい

けんちゃん漬はサラダ感覚で食べられる浅漬け風の商品が多く、そこは昔から変わっていません。創業当時はもっとしっかり漬けた漬物を求められることもあったようですが、うちの漬物は野菜の良さを伝えることが目的なので、今のスタイルを大切にしています。例えばどこかの漬物屋さんで修業をしていたら、今とはまた違う漬物を作っていたかもしれませんが、うちは祖父の代から一子相伝。創業からの歴史の中で勉強や改善はしていると思いますが、新鮮な野菜で野菜本来の味を大切にした作り方はこれからも変わらないと思います。添加物についても、保存料や着色料は使っていません。色味も野菜そのものの色味です。

今は食の多様化も進んで、日常的に漬物を常備する人も減ってきています。アスパラやネギといった変わり種の漬物は若い方にも評判がいいので、昔ながらの漬物を推すばかりでなく、いろんな形で漬物の魅力を知ってもらいたいです。漬物はいわば調理済みの野菜なので、例えばきゅうりの浅漬けをミニトマトや茹でたタコと一緒に和えて和風サラダにしたり、春キャベツの浅漬けと茹でたパスタでサラダ風パスタができたりと、いろいろ応用ができるし、手軽に野菜が取れるんですね。そういった提案も今後さらに増やしていきたいと思っています。

そうして漬物をたくさんの人に食べてもらうことで、地元の生産者さんたちにも還元できるし、さらに野菜作りに励んでもらい、その美味しい野菜でまた漬物をつくる、そんないい循環をつくりたいです。島根や出雲の良さを、漬物を通して全国の人に認知してもらい、地域を元気にできるように。夢は大きいですが、けんちゃん漬のみんなと一緒に叶えていきたいです。

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出雲人が薦める出雲

手造りうどんたまきの「しょけめし」
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うどんやそばと一緒に食べるあの炊き込みご飯が好きで、小さい頃から家族でたまきに行くと、だいたい注文していました。大学時代に島根を出た時に、出雲の味だなって感じましたね。時々無性に食べたくなります。

出雲北山
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昔からずっとそばで見てきた山。小学校時代は北山を目がけて登校して、会社に行くときも北山を見ながら通勤して。北山に雲がかかっていると、雨が降るから傘持っていこうみたいな。たまにトンビの鳴き声が聞こえてきて、癒やされています。

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