溶接でつながる地域の輪
おがた ひとみ
小形 瞳
(テツカステン)
出雲市平田町出身。 高校卒業後、事務員など、いろいろな職を経て溶接に出会う。一度退職したが、ポリテクカレッジで溶接の資格をとる。 ステンレスを加工する工場で溶接の実践を経験。 2022年に独立し、アイアンorステンレスを意味する”テツカステン”として活動を開始する。
目指すのは心惹かれるアイアン作品。
アイアンをメインに、一人親方で溶接作品を制作しています。ステンレスや他の素材での制作もしていますけど、アイアンが一番多いですかね。
オーダーメイドの椅子やテーブルの脚、植物を飾るラックやアイアンバーなど、制作するものは様々です。表札をアイアンでオーダーされた方もおられましたよ。
今は植物のブームが来ていて、植物ラックなんかも注文があったりするんですよ。思いつきで作ったものを結局自分で使ったりもしてますね。
もちろん、イベントに合わせて作ることもありますね。イベントで初公開!みたいなシチュエーションもあります。イベントでは県外から来られる方もいらっしゃるんで、そんな方との出会いも楽しいです。
大きいものだとパーテーションだったり、階段の手すりだったり、新築のお家や店舗なんかにも行って現場で作業することもあります。
インスタが宣伝も兼ねているので、いろいろな作品を載せていますよ。そこからオーダーが来ることも増えてきましたね。ありがたいことに様々なイベントに出る機会も増えてきました。
溶接の魅力に引き込まれて。
テツカステンを開業したのが2022年の7月。
前職はステンレスの板を溶接する仕事をしていました。高校卒業後、違う会社で事務をやったけど自分には合わないなと思って、いろんな仕事を経験しましたよ。販売もやったし、配達もやった。でもなかなか自分に合う仕事ってなかったんですよね。
そんな時にたまたま紹介してもらった会社が溶接の会社でした。20歳くらいの時でしたね。
その会社は独立してすぐの方が始めた会社で、社員を募集していたんですね。そこで初めて応募してきたのが私だったんです。でもその当時、溶接の仕事でなかなか女性っていなかったんですよ。だから最初は戸惑ったようですけど、試しで雇ってみたらしいです。
そこで初めて溶接を経験しました。すごい面白いと思って。そこから溶接にはまりました。その時の師匠とは今でも付き合いを続けさせてもらってます。
その後、途中で結婚出産があって一旦離れたんですけどね。だけど子育てしながらも仕事から離れてみて、やっぱり溶接が好きだと、まだ続けていきたいと再認識しました。
子育てが落ち着いてきたところで、ポリテクに通うことを決めました。溶接の勉強もしたかったし、半年通ったら溶接の資格が取れたので、資格を持っていればどこかに雇ってもらえるかなと考えたんです。
やっぱり女性はちょっと敬遠されるという風潮がまだあったんですよね。求人に男女不問とは書いてあっても実際電話してみたら女性は求めていないって言われたりね。どうしようかと思っていたら、実はその会社は以前お世話になった師匠の会社の事務員さんの旦那さんが勤めておられたみたいで。私の名前を知っていただいていて、一回会ってみましょうっていうことになりました。私のことを覚えて下さってた!と嬉しく思いました。いろんなご縁があったからこその転機でしたよね。
そこの会社の工場長がまたすごい職人さんでね。もう熟練の技ですよ。すごく尊敬していました。この人が退職するまではついていこうと思ったんですよね。
そこには何年か勤め、経験を積ませてもらいました。でもまあ、いろいろなことが重なって、考える時間をもらった時に独立する選択肢もありだなと考えるようになりました。そうこうしているうちに、自分なりのタイミングがあって、もう溶接機も買ってしまって独立しようと決心したんです。
本当に人生の転機だったなって思ってます。
年齢的にもなかなかですよね。その時45歳!この歳で独立するのもチャレンジだけど、だからこそ今だと!
周りにも恵まれていたのでね。友達にも自営業の人は多かったですし、いろいろ話を聞きながら進めていきましたね。いろいろな人との輪が徐々に広がってきて楽しかった〜。
前の会社とも今でもいい関係でいさせてもらってるので、うちでできない板ものを外注させてもらったりと頼りになる存在です。「機械やるわー」なんて中古の機械をもらったりね。
私の父親は左官業、主人は水道業という道具は豊富に揃った環境だったのもよかったですね。あるものを使わせてもらって、いいと思えば自分の欲しい道具を買うって感じで。
自宅の小屋を工房にして作業しているんですけど、元はバイク小屋(笑)もう私の好き勝手に使っています。
完全に一人親方です。みんなびっくりされるんですけどね。テツカステンってどんな人がやっているのって不思議な感じがあるらしくて。
イベントで会った人に「インスタをフォローさせてもらってます!」ってよく言ってもらえます。イベントに出るのはお客さんにこういう人間(私)が作ってるんですよっていうことを知ってもらうため。イベントでは売れなくてもいいんです。売れる売れないじゃないんですよね。
いろんな方と交流できる醍醐味がイベントにはあるんです。
やっぱり1人でやってると、打ち合わせや下見とか全部自分が行くので、その場で見て判断ができるから話が早いっていうのもあるみたいですね。ただ、全部1人だとスケジュール管理が大変だけどね〜。でも、外に出て人と喋るっていうのは勉強になるんですよね。人の話って、やっぱりおもしろくて自分が知らないことっていっぱいあるなって。事業をされている人の話に耳を傾けるようになっていろんな発見がありましたね。
1人でやるって大変だけど、なかなかできない経験をさせてもらってますね。
アイアンの可能性は無限!
アイアンで作るものは奥が深いですし、デザイン的なものは本当に限り無いです。木とコラボとか、最近は地元の石屋さんとお話しさせてもらって、コラボしたりもしていますよ。例えばアイアンの取手をつけたお肉を焼く用の岩盤とかね。大根島産の貴重な石です。油を塗って石を育てるんですよね。遠赤外線効果でおいしく焼けるんですよ!
家でも使えてキャンプでも使えるようなものを作ることも多いですね。私自身がキャンプとかアウトドアが大好きなので、いろいろ考えるのも楽しいんです。
鉄につくサビがいい人とピカピカがいい人、好みもそれぞれですよね。私はサビが好きです。言っていただければできる範囲で対応します。
自家塗装とかもしているので爪がめっちゃ黒いんですよ〜。この仕事を始めたら鼻の中も真っ黒になるんです。夏なんて工房は40度超えちゃって!流石に冷風機買いましたよ。化粧なんてすぐ落ちちゃう!溶接の光って紫外線なんで肌が焼けるんですよね。だから夏でも長袖は必須!暑いですよ〜!
やっぱり鉄なんで力仕事。大物を作るとなるとひっくり返したりとか、割と力がいるんですよね。そんな大物も全部自分で施工先なんかにも持って行きますよ。施工は受けた工務店さんと一緒に取り付けたりしますけどね。
溶接もいろいろ種類があります。TIG溶接、アーク溶接、半自動溶接、ガス溶接があります。うちはTIGが多いかな。
もちろん今までに怪我もありました。小さい怪我から大きい怪我まで。現場でサンダー弾いて10何針縫ったことも。怖いですよね。それ以来本当に注意するようになりましたね。結構命がけ(笑)これくらいで済んで不幸中の幸いだったなと思いましたね。
昔は趣味がたくさんあったんですよ。キャンプに登山にサーフィン、サップ、バイク…。休みの日には何しようかなって考えるのが楽しかった。でも今は仕事が忙しいからね。
今はイベントに出るのが楽しいので、それが自分にとって遊びかな。ストレス発散になるしね。
キャンプ関連のイベントに出ることも多いですし、やっぱりキャンプが好きだからアウトドアに関したものを作って持っていくんですよ。作品を考えるのも好きですね。
折り畳みラックのときは使い勝手を色々考えて制作しました。無骨キャンパーの方にも満足してもらようなものができたかなと。私自身が実際キャンプをしているからいろいろ工夫できるし、そういうことを考えるのも楽しいです。
地元をもっと活性化させたい!
今はネットで検索するとすごく安いものが手に入るじゃないですか。ちょっと焦りますね。それでもうちの製品が欲しいと言ってくださる方もたくさんいて、県外の方からもオーダーがあったりして、いろんなところで使ってもらって嬉しいですよね。
今後は地元のいろんな人とのコラボも考えています。最初は石でしたけど他にも可能性はたくさんあると思うんですよ。木はよくあるけど、もっと違う方向性もあるかなと思ってますね。地域とも密着して、もっともっと盛り上げていきたいですね。自分の地元だから知り合いもいっぱいいるしね。もっと輪も広げて行きたいな。
テツカステンを始めて1年ちょっと。とにかく1年が早かった。短いけど濃ゆ〜い日々でしたね。フットワークは軽いので、この1年あちこち行きましたね。
工房には皆さん気軽に見に来たりされるので。気になったらどんどん来てもらっていいですよ。ただ道が狭くて、ちょっとわかりにくいのがネックですけどね。
出雲人が薦める出雲
- 日御碕灯台
海が見たくなってたま〜に行きます。海が好きだから。灯台の上からの眺めは最高。
- たま川
平田の居酒屋。気付けば20何年通わせてもらっています。メニューはずっと変わらんけど、お父さんの人柄でみんな集まってくるお店です。