大社に自生するツバキを
地域の6次産業として確立する

しがあつお

志賀厚雄

京都生まれ、東京育ち。19 歳の時にイギリスに渡り、環境デザインと古代都市生成史を学ぶ。 帰国後教育出版系会社に就職した後、アメリカに移住 10 年。2 年前に家族と共に出雲市にIターン。現在、鷺浦で椿の森づくりと 6 次産業化に取り組む。 NPO 法人 MORIMORI ネットワーク島根支部長、(公)財団法人未来工学研究所特別研究員、椿セラピー協会設立事務局代表。

イギリスに渡ったことで
日本の素晴らしさを再認識

私は 19 歳の時に、イギリスに渡り環境デザインと古代都市生成史を学びました。その中で陶芸と釉薬の研究をしていた時に、イギリスで「アートアンド・クラフツ・ムーブメント」の流れを引く陶芸家バーナード・リーチの薫陶を受けた教授から、リーチが日本を度々訪れ、この島根にも足を運んでいたことや、日本で民藝運動を起こした柳宗悦や濱田庄司らとも交流があったことを聞きとても驚きました。陶芸を総合芸術としてとらえていたリーチが日本の伝統工芸(手わざ)を高く評価していたことを、イギリスではじめて知ったのです。

逆輸入と言いますか...私は海外に出て改めて日本の伝統工芸や精神文化の素晴らしさ・奥深さを知ることで日本人でありながら、外国人の感覚で日本を見ることができたのです。

その後、日本に帰国し、教育出版関係の仕事をしました。その後、米国に移住し、コンピューターグラフィックスやITに関わる仕事をしていました。英語が話せたことで、ヤフーの創業者やアップル社の重鎮などシリコンバレーで活躍していた起業家や異能クリエーターと交流をもつことができました。彼らと話をしていると、世界の動向や未来が見えてくるのです。

日本に帰国後、出版社の依頼を受けて、シリコンバレーの体験をまとめた見聞録として『デジタル・メディア・ルネッサンス』という本を上著させていただきました。その本の中で述べている「アイランド・エコロジー」の概念は、豊かな自然に恵まれた伊豆大島で生まれました。

地球を宇宙に浮かぶ「島」に例えて、有限な島の資源を活用した、自然環境と共生する持続可能な経済の形を模索する…。そうした伊豆大島の暮らしの中で出会ったのが「ツバキ」だったのです。

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カメリアジャポニカの神秘
外国から知るツバキの貴重価値

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ジャポニカの称号は天然記念物である朱鷺で有名ですが、ツバキの学名は「カメリア・ジャポニカ」なんです!日本を代表する菊や桜の花にも付いていない「ジャポニカ」の肩書をもつツバキの愛好家は世界中に広がっています。
ツバキは古事記や日本書紀にも登場し、『出雲國風土記』にはこの地域の特産品として記されています。「延喜式」には、中国皇帝への献上品目録にツバキ油が記載されていたことから、ツバキ油は中国の先進文明の「お宝」との交換価値をもっていたことになります。ツバキのことを調べていくほど、ますますツバキに興味が湧いてきました。ツバキ油は「不老長寿の薬」と言われ、重要な輸出資源だったようです。そしてオレイン酸が含まれていることからコレステロール値の低下、動脈硬化などにも効果があると言われています。近年の研究では、椿に含まれる抗酸化成分が炎症予防や、うつ病など、脳機能の活性化にも貢献することが分かってきました。

太古から身近にあり、当たり前のように使われていたツバキ油。しかし、その価値は日本ではあまり知られていないのです。

ツバキ油の事業化に向けた取り組みは2009 年、伊豆大島の福祉施設とのご縁で始まりましました。山の資源を活用するため育成にかかわる原価はゼロ。あとは知恵と努力だけの勝負です!島の人の協力で、ツバキが自生している場所を教えてもらい、植生や森の作り方、畑での栽培法や搾油法などを学びました。縄文から続く採取文化がそうであるように、種を採取し加工することで成立するビジネスです。本当にありがたい自然の恵みです。2011年には東日本大震災後の復興支援活動として、椿を市の花とする岩手県や宮城県の市町村で、社会福祉施設が復興した東北随一の搾油所に伊豆大島で集めたツバキの種を送り、ツバキを通した復興事業の育成に取り組みました。

原石である自然資源を
6次産業化し磨きをかける

出雲にIターンした縁は、偶然か?必然か? 2012年遷宮の前年に出雲大社にお参りし、その翌年に子どもを授かったのです!まさにご縁で出雲に呼ばれている気がしました(笑)。田舎に移住することに抵抗はありませんでしたし、当時、東京の事務所と伊豆大島を行き来していたのですが、東京の離島に暮らす中ですでに、「田舎はスゴイ」と感じていたのです。

なぜなら、海に遊びに行ったらサザエやアワビ、イセエビが、山へいったら自然薯が獲れる…、遊びに行くとおいしい土産がついてくるのです。売り物じゃないので自家消費なのですが、東京で買えば何万円もする高級食材です、なのにGDPには計上されません(笑)。田舎では収入が少ないと言いますが、ものすごく豊かな+αがあるのです。それを経験していたので都会にいるよりも田舎で暮らす方が良いということで、豊かな自然にめぐまれ、子育てしやすい出雲市への移住を決めました。ちょうど2年前のことです。

よく「何でこんな田舎に来たのか?」と聞かれますが、私からすると、田舎は「最先端」!未来がまだ原石としてここにある…。それをどう磨いて、輝かせるかが私の出雲での課題です。

現在取り組んでいること:1つは「森の駅」事業として、自然採取による山の恵みを活用したモノをブランド商品に育てて、既存の店舗や施設コーナーに置かせてもらって流通させること。また山歩きツアーや木のおもちゃづくりなどのイベントを通し、森の資源活用のかたちを示すことで、ファン(利用者)を増やす、ヒト・モノ・コトのつながりを生み出すステーション「森の駅」を軸とした未活用森林資源の事業化です。

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椿の花びら

出雲産「大社ツバキ」ブランドを
セレブ御用達の商品化へ

もう1つは、伊豆大島で培ったツバキ油事業のノウハウを生かした、「大社ツバキの6次産業化です。

初めて出雲へ訪れたとき、スサノオノミコトとご縁がある神社に案内していただきました。そこには必ずツバキの森があったのです。スサノオノミコトは国づくりをとおして、植林法やたたら製鉄、鍛冶技術などの生産文化を伝えたといわれ、出雲市の北山山系にある山深い「韓竈神社」にも祀られています。太古から出雲地方には「野たたら」があり、椿油はその鉄でつくる刃物の錆び止めに欠かせないものであったといわれています。出雲大社の後背地である北山には鮮やかな赤色の椿が多く自生していますが、赤い花の色素は花びら染に適しており、そのほかお茶にすると薬効成分が摂取できます。堅い木は柄や炭の材料に、灰は染色の媒染材の他陶芸の釉薬にも使われます。

こうした自分の思いを出雲市役所の農業振興課の方にお話したところ、地域おこしに取り組んでおられる鷺浦在住の方を紹介していただきました。その方のお世話で古民家をお借りしてツバキの森づくりに挑戦しています! 鷺浦周辺の北山山系は火山性の土壌に加え、対馬暖流の影響で海風がツバキの生育に適した環境をつくっています。山に群生しているツバキからは、バラつきがない均質の種が収穫できるので、高品質の油がとれるのです。このような、ツバキの森から集めた種から油を採取して、出雲産「大社ツバキ」ブランドとして商品化することを考えています。そして油の販売では、椿セラピーサロンを開き、生徒さんを増やすことでツバキ油の需要も増やしていけたら…と思っています。椿の森づくりに始まり、自生する椿から種の収穫~搾油~製品化、さらに副産物である花や灰から染め物や釉薬を使った陶芸に至る一連の産物を事業化することで、ツバキの6次産業を育てていくことを考えています。

出雲では、これから高齢者が増え、若者が減り、子育て世代がどうやったら生きていくかが切実な問題になるかと思います。子育て中の主婦やシングルマザーや定年退職されたアクティヴ・シニアの方々が午前9時~午後5時という労働時間にしばられない仕事、しかも地域資源を活用した、自由な時間で自然由来のクオリティが高い素材を採取、加工し、工夫を加えることで、有望な産業を育てていけると確信しています。
そして、ゆくゆくは海外進出も目指しています! 高級素材にこだわる海外のセレブたちは本物志向です。また、オリジナリティも大切です。例えば、出雲の温泉と混ぜることでエマルションを作れるので、自分だけの化粧水をつくることもできます。ツバキ油で新しい特産品やマーケティング展開ができると思うと、ワクワクします。

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出雲市内を一望できる北山から、ツバキを囲む志賀夫妻。

出雲人が薦める出雲

地域ならではの食材
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この地域で、しかも旬の時期にしか食べられない海産物が気にいっています。例えば十六島海苔や、磯の香りが味わえる獲れたての板わかめや、昔ながらの方法で手間をかけて作るアラメなど滋味・風味豊かな食材が魅力です。日御碕の土産屋の冬季限定メニュー「寒ヒラマサの海鮮丼」は、わざわざ県外から食べに来られる人もいるようです。出雲市には私の知らない魅力的な食材が、まだまだありそうです。

鷺浦の幻の天然わかめ(若芽)
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北山からの清流が海に流れ込む鷺浦の入り江で育った海産物は豊かな風味と滋味が魅力です。出来立ての島根米にあぶった板わかめを載せて藻塩をパラリした上にツバキ油を垂らしていただくと、全ての食材が絶妙なハーモニーを奏でます。

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