偶然の破損が
金継ぎにより究極の用の美を表す

しんぐう ゆかこ

新宮 由佳子

(金継ぎ師guu.)

出雲市出身。地元の高校を卒業後、広島市立大学芸術学部へ入学。漆造形専攻へ進む。卒業後、宮島轆轤(ろくろ)で木地を学ぶ。小料理屋で金継ぎを依頼され、漆塗りを再開。金継ぎ師となり、出雲市、松江市、東京を拠点に金継ぎ教室を行う。

ヴィジュアルから造形へ
未知なる漆(うるし)との遭遇!

子どものころから絵を書くことが好きで、中・高校では美術部でした。大学は出雲市を離れ、広島市立大学芸術学部へ入学しました。芸術学部にはデザイン工芸学科があり、その中に7つの専攻があります。1年生のときは全ての専攻課題を行い、2年生から1つを選ぶことになっていました。

もともとイラストが好きだったので、ヴィジュアルコミュニケーション・デザインといってポスターなどを描く視覚造形専攻へ進もうと思っていましたが、クラスの半数が希望していたので『みんなと同じじゃ、つまんないな』と思い、誰一人希望がなく、それでいて〝未知〟なる漆造形専攻へ1人進むことになりました。

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手間がかかる漆塗り
形と塗りで作風が七変化

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漆造形科では、漆器が出来上がるまでの工程を学びました。木地からつくり、下地など漆を塗るまでに2030工程もあるのです。講義や技術の指導は広島在住の蒔絵の巨匠が講師として来ていただいたので、蒔絵も学ぶことができました。

3年生になると、テーマ制作を行いました。翌年の2月に行われる展示会までに作品をつくります。その時の共通テーマは「FACE」。私は木が好きで日頃使うものが好きだったので、木工ろくろを回し、漆を塗り重ね、富士山のような山型のおちょこを4個制作しました。それぞれ同じ形ですが、色や蒔絵で加飾を変え、いろいろな山の表情=FACEを作りました。

卒業制作もおちょこを制作しました。実は、日本酒が好きなのです(笑)。なぜなら、広島の郷土料理を提供する小料理屋でバイトをしていて、その時においしい地酒を知ったからです。なので〝おちょこしか作りたくなかった!〟というのが正解ですかね(笑)

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怪我の功名から得られた
金継ぎ師への一歩

大学を卒業後、宮島にある宮島轆轤(ろくろ)で学びながら、引き続き小料理屋でバイトをしていました。ある日、バイト先の料理長が広島伝統的工芸品の宮島お砂焼きのおちょこを購入したといって、見せてくれました。そしたらなんと私が落として割ってしまったのです。購入したばかりで一度も使ってないのにもう頭は真っ白、顔は真っ青でした。料理長に謝りをいれたところ「漆をしてるんでしょ?金継ぎできるんじゃないの?」と言われたのです。その言葉にびっくりしたのと同時に「きんつぎって何?」と思い、調べてみると、基本的な漆塗りの工程を知っていれば、できると分かったのでした。

本を見ながら独学で金継ぎを行い、割ったおちょこを直してお店にもっていくと、料理長が「とっても、いいね!」と、すごく喜んでくれました。そのおちょこを見たお客様からも褒めていただき『直すっていいかも!』と思ってきたのでした。

次第に、金継ぎが口コミで広まり、依頼をされるようになったのです。このころから、木地師ではなく金継ぎ師へ路線を変えました。

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出雲と東京の2拠点で活動再開
金継ぎ文化をもっと広めたい

金継ぎをはじめて2年、地元の出雲へ戻りました。実は、家族がとても仲が良く、広島にいる頃はいつもホームシックで、毎月のように実家に帰省していたのでした。休日は、本を読んだり、時間を持て余すと本屋に行っています。工芸の本はもちろんですが、俳句歳時記を買って、綺麗な日本語を学んでいます。また自分の頭を整理したいときにエッセイを読んで、人の考え方を知るように心がけています。

現在は、SNSのおかげで出雲にいても、全国各地から金継ぎの依頼がくるようになりました。また出雲に戻ってからは、金継ぎだけではなく、銀継ぎや単に漆継ぎのままで仕上げることもあります。山陰は民藝運動が盛んな地だったため、暮らしの中で使われる器が多く、そのため金より銀、また銀より漆が良い場合があるのです。かつて、日用使いの器に金継ぎを行ったため「もったいなくて使っていない」というお客様がおられ、少し悲しくなったので、モノを見ながら施工を変えるなど、気兼ねなく使っていただけるようにしています。

最初は「金」がいいと言われますが、私が直した器を見られると「銀」や「漆」がいいと言われる方が増えました。

また出雲や松江では、ギャラリーやお菓子屋さんのスペースをお借りして金継ぎを教えています。はじめは「マイナーな金継ぎ教室に、生徒さんが来てくれるかな?」と心配でしたが、少しづつ、興味を持った方が集まるようになり、不定期ですが、教室をさせてもらっています。

昨年から東京にも拠点を増やしました。これからは地元でスクールを行いながら、東京では作品づくりや外国の方向けに、日本の金継ぎ文化を伝えたいと考えています。自分のものを自分の手で直すことが一番健康的だと思います。

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來間屋生姜糖本舗
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出雲ならではの「たばこ」タイムがあり、よく煎茶を飲みます。そのとき、必ずあるのが來間屋さんの生姜糖!かじりながら食べると止まらなくなります。出雲のお土産にも喜ばれます。

くにびき海岸道路
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いつも祖父と散歩をしていた海岸です。夕方に車で多伎まで向かい、そこから海を眺めながら、のんびり歩くのが楽しみでした。夕日がとてもきれいです。

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