「神に舞を捧げたい」
この思いから全てははじまった

たかすか ちえこ

髙須賀 千江子

神奈川県横浜市で生まれ育つ。小学校から演劇をはじめ、大学でダンスの道へ。28歳で即興ダンサーとなり国内外でイベント活動を行う。出雲大社参りをきっかけに、2012年7月に出雲へ移住。現在ダンス活動やヨガ教室も開催中。

東日本大震災をきっかけに
日本も自分もシフトチェンジ期

「いつか伝統芸能が息づいているところに身をおいて、舞いを学びたい」と大学時代に思っていました。その頃、ダンスや演劇の勉強をしていたのですが、勉強するにつれ演劇やダンスの原点は「神様に捧げるもの」だと分かり、勉強や活動を行っていた方向性に限界を感じていました。そして『自分は何をしたいのか?』と自問自答したときに“私は神様のために舞いたい!”と思ったのです。とは言え、横浜で生まれ育ち、これまで神様に捧げる伝統芸能に触れたこともなく、その土台が自分には備わってなかったのです。しかし“あきらめたくない!”と強く思い、そう決めたときに道筋がすーっとついてきたのです。それが2010年の夏でした。

その翌年、2011年3月に東日本大震災が起きました。この震災では地震災害だけに留まらず、人の手が造り出した原子力発電の問題も浮き彫りとなりました。その時に、すごく人間はおこがましい生き方を選んできたのではないかと思いました。そう思ったのは、私の好きな哲学者・梅原猛さんがずっと前から資本主義経済は限界を迎え、これからは東洋的思想「生かされている感覚」にシフトチェンジをしていくと言われていました。そのシフトチェンジが、この震災をきっかけに起こると思ったのです。

そして、福島県で震災に遭われた人たちの前で踊るお話をいただきました。家に帰れない被災された方たちの前で、私は何が踊れるのでしょう…。「もうこれは神様のバックアップがないと踊れない!」と思い、伊勢神宮と出雲大社へ行くことにしたのです。

そして不思議な話なのですが、出雲の地に降りたときに「ここ知ってる!」しかも、地面に降り立った瞬間に「アスファルトの下の地面のことを自分は知っている!」と、今まで感じたことのない衝撃的な感覚がありました。そして稲佐の浜へ行くと、自分の中でみなぎる感覚、感動…とにかく、「いくぞーーーー!!」という強いパワーが湧いてきました。“神様に舞いを捧げる”のは私の使命だと確信したのでした。

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"使命を確信した場所"という稲佐の浜で、ざわめく雲を見上げる髙須賀さん。

導かれるように出雲へ
仲間との繋がりが今の自分をつくる

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伊勢・出雲参拝が終わると横浜へ帰ったのですが、“ご縁”としか言いようのない人たちとの出会い、出雲への移住など、さまざまなことがあたかも用意されていたかのように、動きはじめました。そして出雲市大社町に移住したのは2012年の7月。トロッコに乗せられて連れてこられたような、アッという間の出来事でした。

出雲ではアーティストの友達を介して、たくさんの友人ができました。そのご縁で「出雲やおよろずアートプロジェクト」を立ち上げ、音楽やダンスなどアート系のイベントを開催しています。普段はダンサーとして活動し、寺社仏閣で舞をご奉納させていただいたり、イベントで踊らせていただくなど、県内外はもちろん、海外へも出かけています。ほかにも、市民の人たちと一緒にミュージカルを創作上演しています。秋には主演で「いなたひめ〜おろちの森〜」を上演、稲田神社様に奉納させていただきました。このミュージカルではヤマタノオロチは悪者ではなく、その土地の守り神で、稲田姫はオロチを祀る巫女として深い絆で結ばれていたというお話です。一般的に伝わる神話とは違った解釈で物語を描きました。

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「神々に生かされている感覚が昔から息づく」
出雲の風習は日本の財産

出雲は伝統が日常に息づいていると、すごく感じます。神様と一緒に生きているというのが昔から息づく日本の財産だと思いますが、特に都会ではその感覚がなくなってきています。しかし、出雲は日常の中に神様がいて、守られていると信じて暮らしています。例えば、毎朝神棚に手を合わせたり、神社の前で一礼したり、もちろん地域の祭りもあれば神楽もある、そして出雲大社の神事にも出かけます。自分も、出雲に来てからそうしていますし、毎月1日には稲佐の浜へ潮汲みも行っています。

また、出雲大社といえば「神迎神事」でしょう。旧暦10月に全国の八百万の神が出雲大社にお越しになり「神議り(かむはかり、縁結び会議)」が行われます。その際、大社町は「お忌みさん」の期間に入ります。お忌みさんとは、縁結び会議が行われる間、人間たちは神様の邪魔をしないよう歌舞音曲を控え静かに過ごす風習です。

キーポイントは「静か」にするということ。“お忌みさん”の語源は、心身を浄化させるという意味があります。不浄のものを絶って、心と体を整え清らかにすることをお忌みさんと言うのです。音を静かにする…例えば音楽やテレビなどを消して静かに生活し、瞑想している状況をつくること、自分自身が生きていくことの実感を深くしていくことができます。分かりやすく言うと、心のクリーニングをする期間なのだと思っています。

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出雲神話をミュージカルに
自分のカタチで伝えたい!

出雲は「本質」を残していると思います。出雲大社の遷宮もあったことで、今、日本中の人たちが神の国「出雲」に目を向けてくれるようになりました。これから東京オリンピックに向けて海外の人たちが日本を訪れるときに、本質を触れに出雲へ訪れてくれると思います。でも、身構えずに「お茶をどうぞ」的な、普段と変わらずありのままの出雲でいてほしいです。

出雲歴5年になりますが、出雲の暮しにもすっかり馴染み、最近は伝統や風習、神様を題材としたイベントや舞いを行うことが多くなりました。稲田姫のミュージカルもそうですし、出雲がお忌みさんに入る前には、ライブ"あめつち"も行います。今回は「お忌みさん」をテーマにした紙芝居と舞いを披露します。若い人たちが「お忌みさん」の本質を知ってもらうことと、例えば、神門通りのお店も音楽を消し静かに営業するようなスタイルにするなど、風習が観光に結びついたらおもしろいとも思っています。

やりたいことがいっぱいあって、それを考えるだけでも楽しいのですが、まず今は一つ一つ自分なりのカタチにしているところです。次は神話『国譲り』を題材にして男性神の話をミュージカルにしたいと思っています。 この先10年経ったときに、今蒔いている種が実ってくれたら良いなと思います。 まだまだこれから! この先も楽しいことがいっぱいでワクワクしています。

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取材後に行われた神迎前夜ライブ、あめつちのメンバーと。

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