ジビエ料理を通して
山での暮らし方、自然の奥深さを伝える
横山 茂和
埼玉県出身。東京で貿易の仕事等さまざまな仕事を手掛てきた自称「自由人」。16年前に妻の徳子さんの実家がある出雲市佐田町へ移住。豆富屋を継ぐ。またジビエ肉の解体処理を手掛ける傍ら、団体「須佐の縁 我逢人(がほうじん)」の一員としてジビエ料理の良さやおいしさを広めている。
東京生活から一転。
妻の実家の豆富づくりに四苦八苦。
東京で仕事をしていた時に妻と出会い、16年前に妻の実家があるここ佐田町に移り住みました。彼女は田舎から離れたくて上京してきたので、まさか自分も一緒に移住するとは思っていませんでしたね。
実家はスサノオノミコトを祀る須佐神社のお膝元にある豆富屋(島根県内の豆富店では「腐」という字を使用せず、「豆富」と表記する。)。何を隠そう、Iターンのきっかけは「豆富づくり」でした。実は、出雲市内のスーパー9店舗に豆富を卸すこととなり、今までの3倍の量の注文が入ることになったのです。家内で営む小さな豆富屋だったので人手が足りず、夫婦で手伝うことに。当時は朝から夜中まで豆富や厚揚げ作りをしていました。しかし、義父は何も教えてくれず「見て覚えろ」的な職人気質。大豆やにがりの分量すら教えてくれないのです。「にがりは固まるほど入れろ」と(笑)。「ちきしょうーー」と思いながらも、見よう見まねで仕込みをしていましたね。当然うまくいかず、商品にならないものは、もったいない話ですが全て捨てていました…。Iターンしたもう一つの理由は「出雲には山があるから猟に行ける!」と思ったからです。東京ではクレー射撃で遊んでいたこともあり、ここに来れば現実に猟が体験できるのです! ワクワクしていたのですが現実問題、猟に行く時間はなく、ずーっと豆富を作っていました。
そんな日々が続いていたので「いつ帰ろう…、いつ帰ろう…」と3年くらいは悶々としていました。豆富づくりで疲れ切っていたこと、あと「数の計算ができなくなった」のです。言わば“カルチャーショック”です。東京で暮していた時には、駐車場代だけで20万円かかっていたので、ざっと計算しても生活費に100万円はいります。東京では輸出入の商売を営み、1つの取引額だけでも百万単位でお金が動いていました。一方、佐田町の豆富屋では売価一丁100円前後の豆富を朝から晩まで黙々と作っているのです。正直「ここでは、やっていけない…」と思いました。
しかし、3年くらい経つとやっと頭の切り替えができ、気が付いたのです。「ここは家賃を払わなくてもいい、車はどこにでも停められる。生活費は東京のようにはかからないんだ」と。
趣味の猟が高じてジビエ肉商売を。
いち早く解体処理場を設置し販売を開始!
次第に出雲生活も慣れた頃に、狩猟免許を取得し、猟にも出るようになりました。しかし、ちょうど法令が変わり、解体処理場がないとジビエ肉が売れなくなったのです。そこで早速、自宅の裏に解体処理場をつくり、スーパーにイノシシの肉を卸すようにしました。最初は全く売れませんでした。なぜなら田舎では一昔前までは、イノシシ肉は猟師さんから分けてもらって食べるモノだったからです。5年経ったくらいでしょうか、次第に街中のスーパーで売れるようになっていきました。そうなると、猟ではなく解体の方が忙しくなり、イノシシやシカが罠にかかると山に出向くことが多くなりました。
罠にかかったイノシシは全て肉になる訳ではなく、最初に体毛が抜けているか否かを調べます。脱毛しているということは皮膚病にかかっている恐れがあるため、その肉は食べることはできません。良い状態のモノは、心臓が動いている間に血を抜いていきます。そして持ち帰り解体処理場で作業を行うのです。よく「ジビエ肉は臭い」と耳にしますが、それは血抜きがうまく出来てないことが原因でしょうね。
古民家で
おいしいジビエ料理を体験
10年程前に佐田町の大きな古民家(一縁荘)を改修することとなり、ふるさと島根定住財団の職員さんや地元の人たちと一緒に「田舎ツーリズム事業をやろう!」と話が盛り上がりました。そこで、「須佐の縁 我逢人」を立ち上げました。名前の由来は「今までに逢った人、今逢っている人、これから逢うであろう人」という意味です。
ここでは「ジビエをおいしく食べる体験施設」をコンセプトに掲げ、ジビエ料理体験を行っています。しかし「イノシシの肉」と聞くと、どうしても「ボタン鍋」しか思い浮かばない人が多く、それならジビエ料理の提案も行おうと思い付いたのです。
ジビエ肉は焼きすぎたり、鍋で煮すぎたら固くなります。そもそも肉は柔らかいのです。シカ肉はとてもヘルシーで、鉄分は牛肉の10倍、豚肉の20倍あるので女性におススメ! イノシシの場合は何といっても脂がおいしい! 脂肪分も低いのでタンパク質を取りたい人にはいい食材です。
出雲の山を守るために
次世代の若人へジビエのイロハを伝授
ジビエ料理は難しく考えがちですが、他の肉と変わりません。肉の特性を知り、食べやすく料理すればいいだけです。イノシシやシカのステーキなどは、柔らかくて本当においしいですよ。最近ではジビエ肉のジャーキーなどの加工品も手掛けています。イノシシ肉のベーコンも美味です!
いつもは自分で料理をしていますが、予約制で松江市宍道町にある来待ストーンのフレンチレストラン「ナテュール」のシェフを招いて、ジビエ創作料理を作ってもらっています。
この数年で、ジビエ肉の良さやおいしさを「一縁荘」を拠点に広めてきました。これからは、ここでジビエ学校を開催したいですね。なぜなら最近、若い子がここへ訪れることが多く、猟のコト、ジビエのコト、山のコトを学びたがっていることが分かったからです。その期待に応えて次世代の人たちに、猟の仕方、罠のかけ方、そして山でケガをしない方法などを伝え、もちろんジビエ肉の善し悪しや料理方法なども余すことなく教えたいと思っています。自分が地元の人から山のイロハを教わったように…。そうすることで出雲の山々は生き返り、地産のモノが流通し、地域が循環し活性すると思うのです。
出雲人が薦める出雲
- 須佐神社
やはり氏神の須佐神社です。境内に入るとスーーと気持ちが清らかになります。おススメは人気がない朝6時頃、又は日没前。
- 雑煮
餅が大好きなので、雑煮には目がないです。須佐の実家の雑煮は、醬油ベースの出汁に煮餅を入れ、十六島海苔を乗せて食べます。おいしいので、たくさん食べられますよ!