「たばこする」ってどういう意味?「たばこしよう」こう言われたら、どのように解釈しますか?出雲弁の一つであるこの言葉、みんなでタバコを吸うのではありません。その言葉の意味を知るべく、田舎暮らしを体験できる古民家「一縁荘」で座談会を開催。囲炉裏端でおいしい田舎料理を囲んで、「たばこをする」の風習について語り合いました!「たばこする」ってどういう意味?

「たばこしよう」こう言われたら、どのように解釈しますか?
出雲弁の一つであるこの言葉、みんなでタバコを吸うのではありません。
その言葉の意味を知るべく、田舎暮らしを体験できる古民家「一縁荘」で座談会を開催。
囲炉裏端でおいしい田舎料理を囲んで、「たばこをする」の風習について語り合いました!

左から

《お話を聞く人》

2017年からIターンで佐田町に在住。夫婦で「アトリエルチ」を経営。

  • 廣澤 朝美さん【北海道出身】
  • 廣澤 瑛介さん【鳥取県出身】

《教えてくれる人》

座談会が開催された「一縁荘」の代表とそのご両親。

  • 大島 一雄さん【一縁荘代表】
  • 大島 美代子さん【一雄さんのお母さん】
  • 大島 恒雄さん【一雄さんのお父さん】

朝美さんすごいごちそう!こうやってみんなでお料理を食べるのが「たばこする」ってこと?

一雄さんこんな大げさなもんじゃないよ。たばこするってどういう意味かと言われれば、まぁ休憩するという意味だねぇ。

恒雄さん何かの後の休憩というより、何かの途中だね、10時と3時の。

一雄さん結局、農作業中の言葉だよね、「ちょっと休憩するか」という。何か食べたり飲んだりが目的じゃなく、作業の手を止めようかっていうね。

瑛介さん休憩するという意味で「一服する」という言葉があって、タバコを吸うのも「一服する」っていうけど、そこから来てるんですかね?

一雄さんそうかもしれんね、改めて意味を考えたことはないけども(笑)昔から自然にそう言っていて、「休憩しましょう」とは言わんからね。

美代子さん作業の時には「たばこする」って言うけど、ただ家にいて喉が乾いたなという時には「お茶飲んか」って言うね。

恒雄さんそうだね、逆に農作業の時に「お茶飲んか」とは言わないし。

朝美さんあくまでも作業中の休憩という意味なんですね。手を止めて、お茶やお菓子を食べるんですか?

一雄さんお菓子というより漬物が主かな。季節の煮物とかね。

瑛介さん「はしま」という言葉を聞いたことがあるけど、たばこするとは違う?
※地域により「はしま」「はしまん」など言い方が異なる。

一雄さんちょっと違うね。夏の日が長い頃は、日が落ちる午後8時頃まで農作業するでしょ。そうすると小腹が空くから、その前に軽く食事を取るのが「はしま」。

恒雄さん人に農作業を頼んでる時とかね、夕方からもうひと頑張りしてもらうために“はしま”を出す。笹巻きとかぼた餅とか、季節のものが出ることもあるし。

美代子さんたばこと似てるけど、目的が違うかな。たばこは休憩、はしまはもう一仕事頑張ろうって時に、お腹を満たすためのもの。

瑛介さん普通の食事とは違う、軽食的なもの?

美代子さん私の若い頃は、身内だけのはしまは普通の食事だったね。日の長い繁忙期は昼ごはんと晩ごはんの間、午後4時頃に軽く食べてたよ。

朝美さんじゃあ“たばこ”も“はしま”も、農作業から生まれた言葉?

恒雄さん“はしま”はそうだと思うよ。あと昔は八十八夜※から二百十日までは昼寝をする習慣があってね、昼食べて、30分~1時間くらい昼寝して、それからまた農作業をしとったね。

※立春から数えて88日目。真夏の時期に当たる。

朝美さんへぇー!その習慣は今もあるんですか?

一雄さんどうだろうね、わしは一年中しとるけどね(笑)

瑛介さんたばこの時に飲むのは番茶?煎茶?

美代子さん煎茶だね。ご飯の時は番茶で。 煎茶

瑛介さんこの辺は煎茶を何杯も飲みますよね、なくなるとすぐに注がれて(笑)

朝美さん不昧公さん※から来てる文化ですかね?

※松江藩松平家七代藩主の松平治郷。
大名茶人で知られ、松江に茶の湯文化を広めた。

一雄さんそれはあるだろうね。松江や石見も同じかどうかは分からんけど。

瑛介さんたばこの時、昔はお茶のお供にどんなものを食べてたんですか?

一雄さん基本は漬物だね、いい時は手作りの蒸しパンとか、水ようかんとかあったな。あとは庭にある果物、柿とか梨とかね。渋柿を焼いてもらったやつは、渋かったけど忘れられん味だなぁ。 蒸しパン

朝美さん私はこっちに来てから煎茶と一緒に漬物を食べるようになりました!自分でも漬物や干し柿を作るようになったし、そういうお茶受けを自分で作るのも楽しい。 漬物

瑛介さん僕はシイタケの煮物が好き。地元の鳥取では、お茶の時間に漬物や煮物は出てこないし、煎茶もそんなに飲まない。

朝美さん私も今まで色んなところに行ったけど、漬物や煮物は見たことないなぁ。

瑛介さんこっちに祖父の家があって年に数回来ていたけど、そこでやっぱりお茶の時間に漬物とか色々出てきて、こっちではそれが当たり前なんだと思った。

朝美さん私は北海道生まれの奄美大島育ちで。奄美は暑いから、畑仕事の合間の休憩には、冷やご飯にお水を入れて混ぜたものを食べてたなぁ。こっちでいう、たばこなのかな。

一同へぇ~!

朝美さん麦茶をご飯にかけたり。お茶の時も煎茶じゃなくて麦茶だった。

瑛介さん麦茶と一緒に何を食べるの?

朝美さん揚げドーナツとか。暑いと食べ物が腐りやすいから、砂糖たっぷりのものが多くて。食事も揚げ物が多かったな。鳥取はお隣の県だけど、たばこするって言わないの?

瑛介さん聞いたことないね、僕の家が海側だったからかもしれないけど。

一雄さんあー、たばこするっていうのは出雲の習慣だろうけど、同じ出雲でも漁師町はどうだろうね。

恒雄さん漁村と農村のちがいがあるかもしれん。作業形態も全然違うしね。

朝美さんたばこって外でするもの?

美代子さん季節にもよるね、外にお茶を持ってきてくれる人がいればいいけど、いなければみんなで家に帰って休憩するし。

瑛介さん若い人たちもたばこするって使うんですか?

一雄さん最近の若い人は言わんじゃないかなぁ。

朝美さん大事にするべき文化だと思うな。こっちでよその家に行った時、「お茶していくだわー」ってお茶が出てきて、玄関先で話し込んだり。こっちに来て最初はそれがすごく新鮮でした!

瑛介さん気さくで温かい人が多いよね、ちょっとした用事で訪ねただけなのに(家に)上がるだわって言われて、「えっいいの?」ってこっちが気を使っちゃうような(笑)

朝美さん家の中に上げてくれると心を許してくれてるように感じられる。都会では他人に家の内側を見せるってあんまりないかなぁ。

美代子さん都会の人は家でお茶会というのは少ないんかねぇ?

朝美さんどこかお店でやる方が一般的かもしれない。「うちにお茶しにくるだわー」って誘ってくれるのってすごくいい風習だと思う。

瑛介さんお茶どうぞ、漬物どうぞって、おもてなしを受けてる感じがすごくうれしいよね。

朝美さん自分も誰かにしてあげたくなるよね。

一雄さんそげかー。なんか普通の当たり前のことだと思っとったけど(笑)

瑛介さんたばこするって結局、「一呼吸置く」ということだよね。それって暮らしにすごく大切なことだと思う。余裕とゆとりがないとできない。

朝美さんうん。質の高い暮らしをしているなって思うよね。

美代子さんうれしいこと言われるね(笑)ぜひ引き継いでいってね。

瑛介さん・朝美さんはい、見習います!

一雄さん見習われるようなことでもないけどね(笑)

おいしい手料理を食べながらいつまでも話は尽きず。
「たばこしよう」は、のんびりと暮らす出雲の人の温かい人柄から生まれた、
忙しい現代人にとってこそ必要な風習なのかもしれません。