皆さんはご存じだろうか？　出雲市多伎町のキララビーチには、イルカが出現するという。松江市出身の私は、そんなこと全然知らなかった。

肉眼でイルカを見ることができたら、さぞ幸せな気持ちになるに違いない。いや、むしろイルカを見ることができれば、私も幸せになれるはず。

そうだ、私に幸せが訪れないのは、イルカをこの目で見ていないからだ。コレは絶対に目撃するしかない！
ということで、早速多伎町へと向かった!!

噂によると、キララビーチではイルカが出現すると、有線放送でその情報を伝えるという。本当なのか？
多伎町の人にとって、イルカの出現はそれほど重要な情報なのか？　でも、ちょっとロマンチックやん。 

そうであって欲しいと願いながら、キララ多伎に到着。車を駐車場に止めて、早速海岸へと駆け下りた。

季節は秋。とはいえ、もう11月だ。冬の予感を匂わせる日本海には、白波がバンバン立っている。寒い……、控えめに言ってもクソ寒い。だがしかし！　寒さに負けている訳にはいかない。だって、私の幸せが懸っているのだから！

奥歯をガタガタ言わせるほど寒くたって、帰る訳にはいかないのだよ。幸せになるチャンスを自ら放棄したら、この先は不幸せしか待っていないかもしれないじゃないか！　負けないぞ～!!

この広大な海のどこかに、イルカはいる。きっといる。多分いる……。いると思う……。やべえ、寒風に吹き付けられているうちに、段々弱気になってきた。到着して5分しか経ってないのに……。

おい、イルカ。私の心の声が聞こえるか？　いるのは分かっているんだ。早く出て来なさい。隠れていてもムダだ。お母さんも心配しているぞ。そんな私の心の声による呼びかけも空しく……。

ザッパーン!!

ザッパーン!!!!

と、無情に荒れ狂う海。非常にバカにされた感じで不愉快だ。チクショーッ！

寒－－－－－－－－いッ！

クソ寒－－－－－－－－－－－いッ!!!!!

いくら叫んでみたところで、波音に敵う訳もなく、またこの魂の叫びがイルカに届くこともなかった……。

このままではラチが明かん。かと言って、幸せを放棄する訳にいかんしなあ～……。あ！　いい事を考えた!!

海の見える最寄りの喫茶店に避難した。これで、寒い思いをせずに、幸せにたどり着くことができる。頭イイ！
こうやってぬくぬくと幸せを待つことにした。

……この後、1時間にわたって、双眼鏡をのぞきながらイルカの出現を待ったが、日没を迎え辺りは真っ暗……。ついに幸せのイルカを発見することはできなかった。残念……。

地元の人に話を聞くと、イルカが目撃されるのは大抵早朝なのだとか。

そして、有線放送の真相についても尋ねると、そういう放送がされることはないそうだ。放送されたら、かなりロマンチックな町の取り組みだと思ったんだが。

いずれにしても、そう簡単に幸せを見つけることはできないのかも。逆にいえば、やっぱりイルカを見られるのは幸運なことなのではないだろうか。